経営労務トピック

男性育休を「共育て」の一歩に(8/27日経新聞より)

男性の育児休業取得率が2022年度、過去最高の17.13%になった。前年度より3.16ポイント上がった。ただ女性の取得率8割との差はなお大きい。男女ともに仕事と子育てが両立できるよう、一層の取り組みが必要だ。

22年度の取得率は、20年10月1日からの1年間に配偶者が出産した男性のうち、22年10月1日までに育休を開始・申請した人の割合だ。より柔軟に取得できる「産後パパ育休」などが同月から始まったが、今回の数字には入っていない。足元ではさらに取得が増えている可能性がある。

それでも、25年までに50%、30年までに85%という政府目標とはまだ開きがある。規模による差も大きく、従業員500人以上が25.36%であるのに対して、5〜29人では11.15%だ。政府は6月にまとめた少子化対策「こども未来戦略方針」のなかで中小企業への助成拡充を打ち出した。着実に進めたい。

そもそも育休は長く続く子育ての最初の一歩にすぎない。目指すべきは日常的に男性が担えるようにすることだ。それには職場の働き方を変えることが欠かせない。

生産性向上で労働時間を減らしたり、在宅勤務やフレックスタイムを活用した柔軟な働き方を広げたりするなど、企業は工夫をこらしてほしい。

男性の育児を阻む社会規範にもメスを入れたい。「男性は仕事、女性は家庭」という意識は根強く残る。家事・育児分担の男女格差は、先進国のなかで著しく大きい。この根本的な構図を変えなくては、男性の育休促進も形だけのものに終わってしまう。

政府は「共働き・共育て」を少子化対策の柱に位置づける。ならば働き方と規範見直しの具体策をもっと前面に打ち出してほしい。男女の分業を前提とした税・社会保障制度も見直す時期だ。

育休制度ができたのは30年以上前の1992年だ。「男性が育休をとると職場がまわらない」にはもう、終止符を打ちたい。

                                            

7月31日付日経新聞の調査によると、産後パパ育休制度を知らないと答えた人は、こどもがいない20~30代で6割弱に上りました。一方で育休を取りたいと答えた男性は66.8%おり、制度の充実や取得しやすい環境と合わせ、周知も進めていく必要性が改めて浮き彫りとなりました。

令和4年4月1日の法改正により、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して事業主は、育児休業制度に関する次の事項の周知と休業取得の意向確認の措置を個別に行わなければなりません。

産後パパ育休制度とは、令和4年10月1日の育児介護休業法改正によって新たに創設された制度です。

産後パパ育休制度は、夫婦で仕事と子育てを両立する制度でもあります。育児休業制度を活用し、充実させることで、働きやすい職場づくりを進めることができます。

育児休業制度の導入・アピールによって、会社のイメージが向上し、若い人たちの採用向上につながることも考えられます。人手不足が社会問題となっている現状を踏まえて雇用の質・量を確保するためには単に賃金増を図るだけではなく、働く人のための環境作りも重要です。良質な労働者を長期的に安定して雇用するためには、こうした制度をいち早く取り入れ社会にアピールすることも不可欠になるのが時代の潮流です。

厚生労働省から出ている両立支援等助成金の中には、男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境を整備した事業主に対する助成金などが設けられていますので、活用されてはいかがでしょうか。

まずは、育児休業規程を整備し、必要であれば、労使協定を結びましょう。

育児介護休業制度のご相談は、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご連絡ださい。


 

少子化の一因は「逸失所得」 出産退職で生涯賃金大幅減 (4月23日 日経電子版より)

子どもを持つか持たないか――。家事・育児の負担が女性に偏る日本では、その選択によって女性の人生は大きく変わります。生涯賃金もそのひとつ。キャリアの中断で、もらい損ねる賃金(逸失所得)が多ければ多いほど出産をためらう女性が増え、少子化につながりかねません。

ニッセイ基礎研究所の上席研究員・久我尚子さんは、賃金などに関する国の統計データを使って、大卒女性の典型的なライフコース(11パターン)ごとの生涯賃金を試算しました。出産せずに新卒で入社した会社で正社員を続けると、生涯賃金は2億6千万円に上ります。子どもを2人産み、それぞれ1年間の産前産後休業・育児休業を取った場合は2億3千万円です。

問題は出産退職した場合です。子育てが一段落してから再び働こうとしても、一度仕事を離れると正社員として再就職するのは難しい現実があります。例えば第2子の小学校入学に合わせて再就職しても、その仕事がフルタイム非正規なら、生涯賃金は1億円弱にとどまります。

独立行政法人労働政策研究・研修機構の2018年「第5回子育て世帯全国調査」によると、18歳未満の子を持つ2人親世帯の41.9%は、第1子の出産前後に母親が仕事を辞めています。退職理由(複数回答)の1位は「子育てに専念したかった」(46.9%)ですが、2位以下は「両立が難しいと判断した」(37.9%)、「退社することが一般的だった」(20.1%)が続きます。出産をきっかけに不本意退職した結果、世帯収入が減り、子育て・教育費を捻出できずに、2人目、3人目を諦めるという悪循環に陥ります。

「子どもを2人産み、産前産後休業・育児休業を各1年、計2年取得した際の生涯賃金は2億2985万円になります。育休復帰時にすぐにフルタイム勤務をせず、子どもが3歳になるまで短時間勤務を選んだ場合は2億2057万円です。第2子が小学校入学まで短時間勤務を続けたとしても2億1233万円を得ます。つまり育休や短時間勤務などの両立支援策を活用して同じ会社に就業し続ければ、制度の利用状況に応じて賃金は相応に減りますが、それでも生涯賃金は2億円以上を確保できます」

「差が顕著に現れるのは出産退職を選んだ場合です。一度仕事を離れると正社員として再就職が難しい現実があります。再就職パターンではいずれも再就職先で非正規雇用として働く前提で試算しています。まずは第1子の出産で仕事を辞め、第2子が小学校に上がると同時に再就職するパターンです。これは一般的によくあるライフコースでもあります。フルタイム勤務で再就職したとしても、正規雇用と非正規雇用では賃金格差が大きいため、生涯賃金は9973万円にとどまります。パート勤務での再就職ならば6489万円です。正社員として就業継続したケースと比べて、生涯賃金で1億円以上の差が生じます」

「国立社会保障・人口問題研究所の『第16回出生動向基本調査』によれば、夫婦が理想の子ども数を持たない理由のトップは複数回答で『子育てや教育にお金がかかりすぎるから』の52.6%です。妻の生涯賃金が減れば当然、生涯世帯賃金も減ります。住宅や自家用車、子どもの教育費といった高額支出を手控えざるを得ません。本当は子どもをもっと持ちたいと願っていても、子育てに十分な費用を掛けられませんので出産を諦めるケースが増え、少子化は加速します」

「もちろん、どのようなライフコースを選ぶかは個人の自由です。社会の少子化問題克服のために働きたくない人にまで就業を押しつけるわけにはいけません。ただ、問題は就業継続を望みながら、それがかなわない女性もいるということです。世帯収入が増えればたくさん子どもを生み育てる希望がかないやすくなるのに、仕事と家庭の両立環境が不十分のために就業を続けようとすると今度は子どもを生みづらくなってしまう。この状況を改善しないと少子化に歯止めはかかりません」

                                          

「政府は3月、少子化に対応するための『異次元の施策』をまとめました。その中には経済支援策として児童手当の所得制限撤廃、学童保育や病児保育、産後ケアなどが盛り込まれました。少子化対策のための第1歩として歓迎すべきことですが、これにとどまらず、さらに拡充して欲しいものです。子供にお金がかかるため産むのに躊躇するのであれば、その対策として育児休業給付金が1歳まで給料の67%支給されるのを2歳まで7割~8割まで引き上げて所得補償することも考えられます。

さらに「N分N乗方式」を日本も取り入れるべきです。これは子供の数が多いほど税負担が軽減される制度です。フランスでは、この方式によって出生率の回復に成功しています。1994年時点では1.73だった※合計特殊出生率が、2015年には2.01にまで回復しています。所得が多いほど子供を持つメリットが高まるため、教育環境の恵まれた家庭でしっかりと子供に教育を与えることができます。この方式は日本では、「金持ちの優遇制度だ」と言われそうですが、所得の低い親にお金をばら撒いたとしても、確実に効果が上がるかどうかは疑問です。社会全体で将来の社会保障制度を担う子供を十分な教育環境の中で産み育てることを優先して、さらに施策を進めることが求められます。

※合計特殊出生率とは、人口統計上の指標で、一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均を示す。

“ウーバー”運営会社に配達員との団体交渉命じる 労働委員会 (NHK NEWS WEB 2022年11月25日 18時39分より)

料理のデリバリーを行う「ウーバーイーツ」の配達員が労働組合を結成し、運営会社に待遇の改善を求めたものの拒否されたことについて、東京の労働委員会は、配達員も労働組合を結成し団体交渉ができるとして、運営会社に対し、交渉に応じるよう命じました。アプリなどを通じて個人で働く配達員の団体交渉について、判断が示されるのは初めてです。

ウーバーイーツの配達員の一部で作る労働組合は、一方的に報酬を引き下げられたなどとして、運営会社に改善を求める団体交渉を申し入れましたが、会社側は「配達員は労働者にはあたらない」として拒否したため、2年前、東京の労働委員会に救済を申し立てていました。

今回は、アプリを通じて個人で働く配達員が、ウーバーイーツの運営会社との関係上、労働組合法で定める労働者として認められるかが争われていました。

東京の労働委員会は25日、「配達員は事業の遂行に不可欠な労働力だ。配達員は働く時間や場所を選ぶ自由がある一方で、広い意味で会社の指揮監督下に置かれていて、労働組合法上の労働者にあたる」などとして申し立てを認め、運営会社に対し、交渉に応じるよう命じました。

「ウーバーイーツ」は、スマートフォンのアプリを通じて、レストランと配達員を結ぶ「プラットフォーム」と呼ばれる事業形態ですが、東京の労働委員会によりますと、プラットフォームを利用して働く配達員の労働組合の結成や団体交渉が認められるかについて判断が示されるのは今回が初めてだということです。

運営会社 “独立した働き方考慮しない判断 誠に残念”

「ウーバーイーツ」の運営会社は「今回の判断は、配達パートナーが重視するフレキシブルで独立した働き方などを十分に考慮しないものであり、誠に残念に思っております。再審査の申し立てを含めて、今後の対応を検討していきます。配達パートナーのご意見に、引き続き耳を傾けていきます」とコメントしました。

配達員 労働組合 “働き方は自由も不安 決定は力になる”

配達員の一部で作る労働組合「ウーバーイーツユニオン」は会見を開き、渡辺雅史執行委員長は「ウーバーイーツの働き方は自由ではあるが、横のつながりなく不安だった。団体交渉に応じないといけないという決定が出たことは、われわれの力になると考えている。ウーバー側とただ話し合いをしたい」と話していました。

また、前執行委員長の土屋俊明さんは「一方的なシステム変更や報酬体系の変更があって、私も含めて配達員が困っている。今回の命令が現状を打開することにつながってほしい。この仕事が嫌いだというわけではないので、話し合いでもっとよくしていきたい」と話していました。

専門家「意義ある命令 保護や制度の議論進める必要」

フリーランスやプラットフォームを介した働き方の現状に詳しい法政大学の沼田雅之教授は、デジタル技術の革新でプラットフォームを介した働き方が広がる可能性を見据え、今から制度の在り方について議論を始めるべきだと指摘しています。

沼田教授は、今回の判断について、「労働組合法上の労働者であることを契約形式ではなく実態に則して判断している。プラットフォームを介した働き方は労働ではないという考えもある中で意義のある命令だ。日本では、労働者かどうかについて、働く側も企業に属しているかそうでないかの二者択一的に見る傾向があるが今回の命令で、企業に属していなくても声を上げていいんだというメッセージが当事者たちに伝わったのではないか」としています。

そのうえで、「働く時間や場所を自由に選択し、企業側もニーズに応じて優秀な働く人を確保できるプラットフォームを介した働き方にはメリットもあり、今後も広がるだろう。それを可能にする技術革新が進む中で、保護や制度の議論が追いついておらず、危惧している。今回の命令をきっかけに議論を進める必要がある」としています。

労働基準法と労働組合法での「労働者」とは

今回、焦点となっていたのはウーバーイーツの配達員が労働組合法上の労働者として運営会社と団体交渉ができるかどうかです。

厚生労働省によりますと、労働条件の最低基準を定める労働基準法と、働く人が企業と対等の立場で交渉することを目的とする労働組合法では、対象となる「労働者」の定義が異なります。

労働基準法での「労働者」は、企業などに使用され賃金を支払われる人と定義され、業務の指揮命令を受けるなどの要件が定められています。労働基準法の労働者になると労働時間の上限や最低賃金などが適用されます。

一方、労働組合法では「労働者」について、「賃金などに近い形式の収入で生活する者」と定められ、「労働者」が企業の事業の一部に組み込まれているかといった要素に照らして判断するとされ、認められる範囲が労働基準法よりも広いと解釈されています。このため、フリーランスなどの個人事業主でも労働組合を作って企業側と交渉を行えるケースもあります。

今回の組合の申し立てに対して運営会社側は、配達員は自己の裁量で働く個人事業主のため労働者ではなく、会社は個人どうしの取り引きの場であるマッチングのプラットフォームを提供しているだけで配達員の使用者にはあたらないなどと主張していましたが退けられました

 

                                         

 

ウーバーイーツの配達員が労働者か否かについては、判断が分かれます。

労基法上の「労働者性」は、就労の実態に即して客観的に判断する必要があります。契約の形式が請負や委任となっていても、実態において労基法上の基準を満たしているか個別にみなければなりません。労基法上の「労働者」とは、使用者の指揮命令を受けて労働し、かつ賃金を支払われている者のことをいいます。(9条)

 

ウーバーイーツの運営会社が、「労働者性」を否定したのは、指揮命令を受けたとしても監督下、管理の下で労務の提供は行われていないことや、報酬の支払い方法、租税及び各種保険料の負担等について考慮したと考えられます。

 

これに対して、東京の労働委員会は、「労働組合法上の労働者に当たる」としました。その上で運営会社に対し、交渉に応じるよう命じました。

 

労働組合法は、「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しています。(3条)。この定義は、労働者の経済的従属性に着目し、労働組合を組織し使用者と団体交渉を行う権利を保障すべき者の範囲を定めたものです。「使用されること」を要件としていないため、労基法や労契法上の「労働者」よりも広い範囲に及びます。

 

ウーバーイーツの配達員については、あくまで個人事業主です。独立して自由に働ける実態においては、「労働者性」は低いと考えられます。ところが、個人と企業が報酬や条件を決定する際に、対等な立場で交渉できるかについては、不平等な場合もあります。

ウーバーイーツのような新しい働き方は、自由でフレキシブルさを享受できますが、その一方で、委任契約であることに伴う法的リスク(自己責任制)を理解しておく必要があります。

「フリーランス」保護新法制定へ…企業に報酬額・業務内容の明示義務、一方的な変更を防止 (9月13日 読売新聞より)

政府は、組織に雇われずに個人として働くフリーランスの労働環境を整備するため、新たな法律を制定する方針を固めた。仕事の依頼主の企業に対し、業務内容や報酬額を明示するよう義務づけ、立場の弱い個人を保護する狙いがある。秋の臨時国会に法案を提出し、会期内成立を目指す。

政府の試算では、フリーランスとして働く人は462万人(2020年)で就業者全体の約7%にあたる。40歳代以上が7割を占め、情報技術(IT)やデザイン関連、配送、建設など業種も多岐にわたる。

新法では依頼主の企業などに対し、仕事を募集する際に報酬額や仕事の内容、納期などを明示し、契約の書面や電子データの交付を義務づける。口約束で仕事を発注し、後から一方的な仕事内容の変更をされないようにする。

契約後に業務を途中で解除するか契約を更新しない場合は、30日前までに予告する義務規定もつくる。フリーランス側に落ち度がないのに報酬を減額したり、納めた商品の受け取りを拒否したりすることも禁じる。違反した場合、公正取引委員会などが調査や勧告を行い、必要に応じて報告命令や立ち入り検査を行う。

フリーランスは働き方の多様化とともに人気が高まる一方、個人としての立場の弱さから、依頼主から不利な契約変更をされても泣き寝入りせざるを得ないケースが少なくない。内閣官房が20年に行った実態調査では、フリーランスの4割が「取引先とのトラブルを経験したことがある」と答えた。

現行でも企業側が資本金1000万円超の場合は下請法の対象になり、フリーランスを含む下請け業者への書面交付の義務などはある。だが、フリーランスに業務委託する企業は4割が資本金1000万円以下で同法の対象外だ。政府は保護の網を広げるため、新法を整備することにした。

                                                  

 フリーランスは、被雇用者と違い、拘束されずに自分の都合のよい時に自由に仕事を受けられるという利点がある一方で、雇用面で不安定なところがあります。労働基準法の保護対象となっていないため、取引先からいつ契約が切られてしまうのかといった不安を抱えるし、再度の依頼や注文があるかの保証もありません。業種によっては注文者から継続して受注するために条件等が低く見積もられることもあり、弱い立場に置かれます。今回の法整備は、これを是正するための第一歩といえます。契約書の発行を義務化することで、仕事の内容や、報酬額を明確にでき、後々のトラブルを防ぐことができます。加えて、フリーランスに落ち度がないのに報酬が減額されたり、納品を拒否されたりすることのないように、公正取引委員会が取締りを強化することも重要です。

当事務所では、業務委託契約書の作成のご依頼も受けております。パターン化された定型のものから、個別の事情に沿ったより詳細なものまで対応いたします。

契約書のご依頼は、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご連絡ください。

下り坂にあらがう〈1〉縮む国「人財投資」で復活(7月26日 日経新聞より)

スウェーデンでは子が8歳になるまで、両親が合計480日の有給育児休暇を取得できる。オリビエさんが約6割、妻が残りを取得したという。

社会全体で負担

スウェーデンが社会保障先進国になったのは、90年前の経験がある。19世紀以降に「多産多死」から「少産少死」への転換が進み、スウェーデンの出生率は大恐慌のころ、当時の世界最低水準ともいわれた1.7程度まで落ち込んだ。国の針路を変えたのがノーベル賞経済学者グンナー・ミュルダールだ。

当時の世論は二分していた。「女性の自由を制限してでも人口増につなげるべきだ」「人口減は人々の生活水準を高めるので歓迎だ」。ミュルダールはどちらの主張も批判し、出生減を「個人の責任ではなく社会構造の問題」と喝破した。

人口減に警鐘を鳴らした1934年の妻との共著「人口問題の危機」を機に政府は人口問題の委員会を立ち上げ、ミュルダールも参加した。38年までに17の報告書をつくり、女性や子育て世帯の支援法が相次ぎ成立した。これがスウェーデンモデルと呼ばれる社会保障制度の基礎となった。

74年には世界で初めて男性も参加できる育休中の所得補償「両親保険」が誕生した。妊娠手当、子ども手当、就学手当などの支援は手厚く、大学までの授業料や出産費も無料だ。育児給付金は育休前の収入の原則8割弱。税負担は重いが「十分な恩恵を得られる」(オリビエさん)。

女性の就業率は高く、現政権の閣僚も半数が女性だ。家族支援のための社会支出は国内総生産(GDP)比で3.4%と、米国(0.6%)や日本(1.7%)をはるかにしのぐ。

「90年の大計」をもってしても少子化に抗するのは簡単ではない。それでも少子化対策は未来への投資だ。「ミュルダールは特に若い層向けの福祉政策を人的資本の投資ととらえ、生産性を高める経済政策を兼ねると考えた。その理念は今も生きている」(名古屋市立大の藤田菜々子教授)

スウェーデンと並び少子化対策の成功例とされるフランス。100年以上の悲願だったドイツとの人口再逆転を、今世紀中に達成する見通しだ。

仏は19世紀前半に独に人口逆転を許し、19世紀後半の普仏戦争敗北は「人口で負けたからだ」との危機感が染みついた。仏は「仕事と家庭の両立」を軸に社会制度を大きく見直した。ドイツは「子供の面倒を見るのは母親だ」という保守的な家族観が一部に残る。

国連が7月に改定した人口推計で、世界人口の年間増加率が統計を遡れる1950年以降で初めて1%を割った。人口減は世界共通の課題だ。

(一部抜粋)

                                            

人口問題、少子化対策については、スウェーデンもフランスも一朝一夕で成功してきたのではありません。出生減は、「個人の責任ではなく、社会構造の問題」という言葉を重く捉え日本も本腰を入れて対策するべきです。

それにもかかわらず、少子化対策や、若者への政策を重視すると高齢者から嫌われるのではないかと選挙の結果を恐れ、それを声高に叫ぶのを躊躇する政治家が少なくないようです。少子化対策は成果が直ぐにでる政策ではないため、スウェーデンやフランスの例のように長期的な観点から腰を据えて行う必要があります。

社会保障問題を政争の具にするのではなく、政党を超えて議論するべきです。

高齢者も日本の社会保障制度が、現在の若者によって支えられていることを自覚する必要があります。

スウェーデンやフランスの成功例も参考にするべきですが、そのまま取り入れるかどうかは、日本のこれまでの歴史的背景や国民性も考慮して検討しなければなりません。

日本の育児環境は、お金が掛かりすぎることから子供を産むのを躊躇する家庭もあるでしょう。まずは、これまで以上に出産手当や育児休業手当を手厚くし、育児休業制度を充実させることで育児環境を整備することが求められます。教育制度については、どこまで無償化を進めるか議論する必要があります。高等教育に関しては、一律に免除するのではなく、優秀な人材に対する経済的なハンディを排除する制度設計が重要です。

 

両立支援等助成金のご相談、育児介護休業法改正に伴う規定の見直しは、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご連絡ください。

進まぬ男性育休、職場の壁なお 取得1割どまり 収入減の不安も 理解不十分、嫌がらせ経験(7月6日 日経新聞より)

男性の子育て参加がなかなか進まない。男性が育児や家事にかける時間は海外と比べ短く、育児休業の取得率は1割にとどまる。育休取得を巡り職場の理解を得る壁はなお高く、休業中の収入減への不安も根強い。男女を問わず働きやすい社会の実現に向け、子育て支援を巡る参院選の論戦が注視されている。

「男性の育休取得率が低いのは社内の空気を読み合っているから」「育児・家事に参画するとマネジメント力も育まれる」

6月、部下の育児と仕事の両立を応援する管理職や経営者「イクボス」を増やそうと山梨県が開いた研修会。育休の効果や取得を促す方法を専門家が解説し、オンラインも含めた50人超の参加者からは「育休を取るメリットをどう伝えたらいいか」と質問も出た。

公務員の50代男性は「男性の育休取得は生産性の向上にも有効という解説は新鮮だった。職場全体へ浸透させたい」と話す。各自治体はこうした研修会を開き、管理職らへの啓発を急ぐ。背景には職場の理解が十分には広がっていない状況がある。

育休などを理由にした男性社員への嫌がらせは「パタニティーハラスメント(パタハラ)」と呼ばれる。厚生労働省が2020年10月に実施した調査では、過去5年間に育休などを利用しようとした男性500人のうち26.2%が「ハラスメントを受けた」と回答した。このうち5割超は「制度利用を妨げる上司の言動」という内容だった。

東京都内のIT(情報技術)関連企業に勤める男性会社員(35)は21年、長男の誕生に伴い育休の取得を上司に相談したところ「前例がない」「業務を引き継ぐ人がいない」と言われたという。男性は「育休が取りやすくなるよう国にはもっと旗を振ってほしい」と話す。

父親の取得促進を掲げ、父母双方が取得した場合の育休期間の延長を認めた改正育児・介護休業法の施行は10年。男性の取得率は少しずつ上昇しているものの、20年度で12.6%にとどまる。8割を超える女性の取得率との差はなお大きい。

同法はさらに改正され、4月から従業員への制度周知が企業に義務付けられた。10月には子の出生後8週間以内に4週間まで育休を分割取得できる父親専用の制度も新設される。厚労省担当者は「利用が広がるかは管理職の意識改革がカギになる」とみる。

職場の理解に加え、収入減を不安視する人も多い。人材大手のパーソルキャリア(東京・千代田)は21年、将来子どもを望む20~50代に育休取得での「心配なこと」を複数回答で尋ねた。男女とも「収入が減るかもしれない」が4割を超え最多だった。

育休中は、状況に応じて給与の50~67%に相当する育児休業給付金を雇用保険から受け取れる。同社担当者は「住宅ローンの支払いなどがある場合は不安が消えない」と分析する。

男性の育休取得率100%の企業でも課題が見えてきた。育休取得に奨励金を出している中部地方の精密部品会社では近年、子が産まれた男性社員は全員育休を取った。制度上は最長2年間休めるが、これまで最も長く休んだケースでも10日間だった。

社員の間には「職場は休みやすい雰囲気だが長期間離れた例がない。復帰できるか不安」という声が根強いという。男性社長は「長く休んでも仕事に戻りやすいように技能を磨き直す機会を増やしていきたい」と話す。

今回の参院選では、男性の育休取得を含めて子育てと仕事の両立を支援する政策を示す政党が多く、演説で時間を割く候補者もいる。

NPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は「誰もが働きやすい環境整備に向け、男性の育休推進は重要な取り組みだ。少子化を食い止め、生産性を上げる『好循環』にもつながる」と指摘する。参院選での論戦を通じ「収入減などを国の支援で補える制度の充実を期待したい」と話した。

                                         

男性の育児休業取得率を上げるためには、3つの壁をクリアする必要があります。

1つ目は、職場上司の理解、2つ目は育児休業中の収入の確保、3つ目は育児復帰後のキャリアを支援です。

これまで仕事一筋で頑張ってきた上司の中には男性の育児休業を理解し難いという価値観の人が多いのが現状です。こうした人達に研修や社内広報等を通じて男性も育児にかかわることの重要性を理解させることが必要です。2つ目の壁を打ち破るには、育児休業給付金に加えて企業がどれだけ支援できるかに掛かってきます。大企業では既に育児休業中は、一部有給扱いにする動きが出てきました。中小企業の場合には、これからの国の支援が不可欠になります。3つ目の壁の対策には、育児休業に入る前に面談を実施することが重要です。その上で育児休業を安心して取得できるように代替え要員を確保することが求められます。加えて、育児休業中の情報の提供や復帰後にスムーズに職場に戻れるようにキャリア支援をすることで従業員は、育児に専念することが可能になります。

国は、本気で出生率を上げたいと思うのなら選挙期間中のみ子育て支援を叫ぶのではなく、具体的に効果的な子育て支援策を実行していくべきです。

今日は参議院議員選挙の投票日です。私たちも国の政策を見極めるために、積極的に当事者意識を持って選挙に行く必要があります。近年、若い人の政治離れや投票率の低さが指摘されています。自分たちの1人1人の投票行動によって将来の国の行く末が決まり、自分たちの生活が影響を受けるということを自覚するべきです。出生率向上のためには本気で取り組む姿勢の見極めも選挙の際の選択肢として考えてほしいものです。

 

育児休業制度のご相談は、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご連絡ください。

大成建設、パパも全員育休 男性8割職場の「壁」壊し術 しごと進化論 (5/15 日経新聞より)

約8600人いる社員の8割を男性が占める大成建設が、育児休業取得率100%を3年連続で達成している。丸井グループも4年連続100%の記録を更新中だ。育休を取りたいというパパたちは確実に増えているが、その前に3つの高い壁が立ちはだかる。「上司や職場の無理解」「収入の減少」「復帰後のキャリア不安」だ。両社はこの壁をいかに壊したのか。

「多数派こそ育児を知らねば」

建設業界は20年間で就業者数が150万人も減り、担い手不足が深刻だ。育児に理解のない職場では、貴重な女性社員をつなぎ留められない。「多数派の男性こそ、育児とは何たるか身をもって知る必要がある」(人事部の塩入徹弥専任部長)。2016年に取得率100%の目標を掲げた。

 

同社では子どもが満2歳を迎えるまで、父親に取得権が与えられる。17~19年度に子どもが生まれた男性社員は全員が取得済み。19年度生まれの場合、平均取得日数は9.7日だ。今や社内の男性の6人に1人が経験者で、子育て中の女性社員からも「緊急時の早退などの相談がしやすくなった」との声があがる。

国は22年10月に出産直後に取得を促す「男性版産休」を創設し、23年4月には従業員1千人超の事業主に取得率を開示することも義務付ける。制度の充実は、取得率が低迷していることの裏返しでもある。厚生労働省によると、20年度時点の全国の男性の育休取得率は12.7%どまりだ。

 

大成や丸井は社内アンケートなどを通じて取得への「壁」を把握し、一つ一つ突き崩してきた。大成の現場では、以前から図面や施工過程のデータを随時上司や同僚と共有し「あす急に休むことになっても交代できる」(社員)状況にあった。しかし「上司や職場の無理解」という第1の壁が高かった。

 

これだけ経験者が増えている大成でも、部下に切り出されて戸惑う管理職はゼロではない。塩入専任部長は「上司こそ業務の先の見通しが本人よりも見えているはずで、調整に不可欠」と話す。

 

「イクボスの皆さんはぜひ取得しやすい雰囲気をつくってください」。初期の旗振り役、村田誉之前社長は全社に断続的にメッセージを発信。トップが発破をかけ、役員、部長、課長と上から下へ意識変革を迫った。

「ダメな部局、一目瞭然」

30近い支店や事業所のトップを務める役員クラスと管理職に、取得率を四半期ごとに一斉送信する。全部門の一覧表なので、ダメな部局は社内中に知られてしまう。未取得の社員がいる部局の幹部には人事部が働きかけ、取得期限が近づくほど連絡の頻度を上げてプレッシャーをかける。

 

その分、上司の権限を大きくした。従来は1カ月前までに人事への申請が必要だったが、上司さえ了承すれば取得直前の申請でもOKとした。「今なら取れる」という機を逃さずにすむ。

 

第2の壁が「収入の減少」だ。原則満1歳、事情に応じて満2歳までは給与の50~67%に相当する育児休業給付金を雇用保険から受け取れるが、夫婦ともに休めば家計不安は大きい。大成では5日間まで育休を有給扱いにできる制度を、今秋にも大幅に拡充する。男性版産休を使う場合は1カ月分を有給扱いにできる方向で検討している。

 

第3の壁である「復帰後のキャリア不安」を壊しにかかっているのが丸井グループだ。

「2年以内に昇進したい。でも産後の妻を助けるにはここしかない」。押川剛一郎さんは18年、当時は前例も少なかった半年間の育休を取得した。復帰から1年半後、男性としては半年育休の経験者で初めて管理職へ昇進。今はグループ会社の部長として活躍する。

 

昇進試験の受験資格は直近1年分の評価をもとに与えられる。育休を挟んだ場合、公平になるよう取得期間を除いて前後計1年分の評価を使う。押川さんの事例を周知し「昇進で不利になるのでは」という不安を払拭。長期取得者を増やした。

100%はゴールじゃない 丸井が目指す「早く長く」

男性育休の取得率100%を目指す機運は鮮明だ。ワーク・ライフバランス(東京・港)は「100%宣言企業100社」を公表している。現在は137社が宣言し、うち33社が一度は100%を達成している。

 

ただ、高取得率はゴールではない。丸井グループの25年度の目標には取得率100%の維持に加え、「育休を1カ月以上取った男性社員の割合20%」や「家庭における男性の家事・育児負担比率35%」が並ぶ。負担比率は21年度にクリアした。

社内で子どものいる女性250人に尋ねたところ、計52%が1週間から1カ月間ほど育休を取得してほしいと回答。時期は54%が産後2カ月以内を希望した。「『早く、長く』がモットー。夫婦間で育児スキルのギャップができず、妻の復帰後もスムーズに協力体制が立ち上がる」(人事部)。国が男性版産休を創設するのも「早く長く」を重要視するからだ。

 

大成は心理学に詳しい大学教授を招き「成長における父性の大切さ」を解説する研修も行った。「代わりが利かないのは業務ではなく父親」と塩入専任部長。短い育休だけで満足しないパパを育てる。

 

                                       

記事の中にもあるように、政府は、今年の10月に出産直後に取得を促す「男性版産休」を創設し、23年4月には従業員1千人超の事業主に「男性版産休」取得率の開示義務付けを予定しています。

厚生労働省は今年度、両立支援等助成金を改訂し、中小企業も育児休業を取得しやすい環境作りをサポートします。加えて4月から不妊治療の保険適用も認められ、10月からは幼児教育、保育の無償化がスタートすることになります。このように政府が、出生率の増加のために積極的に政策を打ち出していることが窺えます。

先進国では経済発展に伴い、出生率が低下していますが、欧米諸国のうち出生率が回復傾向にある国では、経済的支援から保育や育児休業制度といった「両立支援」の施策が進められてきました。こうした家族政策と出生率との相関関係のモデルを踏まえて、わが国でも近年、「両立支援」のために力を入れています。その一方で、わが国は欧州諸国に比べて現金給付、現物給付を通じた家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されています。家族関係社会支出の対GDP比をみると、わが国は、1.35%(2011年度)となっており、フランスやスウェーデンなどの欧州諸国と比べると、その4割程度にすぎません。

出生率増加のためには、過去に廃止された子供に対する扶養控除を再設定するなど税制にも踏み込み、省庁の垣根を越えて施策を準備することでさらに経済的支援を拡充していくことが重要です。

【出典:内閣府資料 国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」(2011年度)】

 

 

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出生率6年連続低下 昨年1.30、最低に迫る 少子化対策、空回り 出生数最少(6/4 日経新聞より)

厚生労働省は3日、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率(総合2面きょうのことば)が2021年は1.30だったと発表した。6年連続で低下し、出生数も過去最少だ。新型コロナウイルス禍後に出生数を回復させた欧米と比べて対策が見劣りする上、既存制度が十分使われず、支援が空回りしている。このままでは人口減少の加速に歯止めがかからない。

出生率は05年の1.26が過去最低。21年の1.30は前年より0.03ポイント低下し、過去4番目に低い。1.5未満が「超少子化」水準で、1.3未満はさらに深刻な状態とされる。出生数は81万1604人と前年比2万9231人減で6年連続で過去最少だった。厚労省は15~49歳の女性人口の減少と20代の出生率低下を理由に挙げる。

結婚の減少も拍車をかけた。21年は50万1116組と戦後最少でコロナ禍前の19年比で10万組近く減った。婚姻数の増減は出生数に直結する。コロナ下の行動制限の影響で出会いが減少したことが影響したとみられる。

 

コロナ下で出生数が減る現象は各国共通だが、欧米の一部は回復に向かっている。米国は21年に約366万人出生し7年ぶりに増えた。出生率も1.66と前年の1.64から上昇した。フランスも21年の出生率は1.83で、20年の1.82から上がり、ドイツも21年の出生数は増加する見通しだ

手厚い少子化対策が素早い回復を促した。野村総合研究所のまとめでは、フランスや英国などは不妊治療の費用を全額助成する。日本は長く不妊治療への支援が限定的だった。22年4月から不妊治療への保険適用が始まったが、仕事との両立に悩むカップルは多い。治療しやすい環境が伴わなければ、保険適用の効果は限定的になる。

中京大の松田茂樹教授は「若い世代の雇用対策と経済支援が必要」と話す。結婚に至らない理由に経済的な不安定さがあるといい、「正規雇用でも賃金が不十分な人が多い。若い世代のキャリア形成支援が結婚、出産に結びつく」と指摘する。

 

出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大になった。国立社会保障・人口問題研究所の予想を上回る速さで進む出生減が主因だ。想定以上の少子高齢化が進めば日本の社会基盤が揺らぎ、世界の経済成長に取り残されていく。

 

                                           

日本の少子高齢化については従来より問題視されてきましたが、効果的な政策が打てていないのが現状です。国の産業が発展し、国民が豊かになり、先進国になると少子高齢化が進むのは必然的であり先進国に共通する悩みとなっています。なかでも日本の場合には、医療技術の発展や社会保障の充実により突出した高齢化社会を迎えています。

本文でも触れられているように日本の合計特殊出生率は、先進国の中でも低い状況にあります。その対策として、国は、育児休業法を改正し今年の4月から中小企業も従業員が安心して子育てのしやすい環境を整える事を義務化しました。合わせて助成金を支給することで企業の負担を軽減しています。

しかし、これだけで本当に若者が結婚して子供を産みたいと思うのでしょうか。

少子化は、労働力人口の低下をもたらし、経済力の低下を招きます。本気で人口増加を目指すのであれば、1組の男女から2人以上の子供を産み育てることが求められます。そのためには若い男女が結婚して子供を産みたくなる雇用環境を整えることが重要です。この国では女性がキャリアを積むことにまだまだ抵抗があります。昔からある性別の役割分担の意識改革も必要になります。

この問題は、省庁の枠を超えて国を挙げて取り組む問題です。

子供が複数いる家庭への税金の優遇や、保育所や教育支援施設といった子供を育てるための労働環境の整備、経済力に関わらず優秀な人材を育成するための教育機関の設置など、将来の日本を背負う若者を社会全体で支える制度作りが不可欠です。

 

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三菱ケミ、在宅無期限で 社員1割対象 出社不要、多様な人材確保(5/18 日経新聞より)

三菱ケミカルホールディングス(HD)は出社不要の「完全テレワーク制度」を期限を区切らずに始めた。本社とその周辺で働くオフィス従業員を中心に、全体の1割に当たる4200人が対象となる。IT(情報技術)企業では導入例があるが、国内製造業では珍しい。働きやすい環境を整えてデジタル関連などの多様な人材を呼び込む。

本社とその周辺で働き、主に事務や営業、システム開発などに携わる従業員が対象。義務ではなく、希望すれば働きやすくなるよう働き方の選択肢を広げる施策となる。安全運転のため24時間3交代制を採っている工場などには適用しない。

従来は社内規定で「週1回以上は出社する」と明記していた。新型コロナウイルスの流行が拡大した2020年春に特例で完全テレワークを認めた。制度の対象となる都内拠点では現在、従業員の7割程度が在宅勤務もしくはサテライトオフィスで遠隔勤務をしている。テレワークが浸透したため今年4月から恒久的な運用に切り替えた。

介護や育児中の社員が働きやすくなる一方で、完全テレワークは社内でのコミュニケーションが大幅に減る恐れがある。三菱ケミカルHDは上司と部下の面談を密にするほか、オンライン方式の非公式な会合を推奨するなどして課題に対応していきたい考えだ。

新型コロナウイルス災厄を経験したことで、テレワークが浸透しました。これによって、出社することが当たり前だった働き方が見直され始めています。テレワークを認めることによって様々な波及効果が生まれます。

具体例として、従業員の通勤の負担を減らし効率的に業務を行えることや、育児や介護中の従業員が働きやすくなることなどが挙げられます。テレワークを導入し、多様な働き方を認めることで、人手不足を嘆いている企業にも対応策の可能性が出てきます。ただし、業種や業態によっては、テレワークが馴染まない企業や部署もありますし、テレワークを採用するのであればその労務管理の問題もクリアーしなければなりません。従業員間のコミュニケーションの問題や、従業員教育の問題など、テレワーク導入前に十分な議論や準備をすることも不可欠です。また、就業規則の中にテレワークに関する規定を盛り込む必要もあります。今後コロナが完全に終息したとしてもテレワークのメリットを享受すれば、コロナ禍以前の働き方に完全に戻すことはできなくなります。

「働きがい改革」道半ば 「仕事に熱意」6割弱どまり 海外と差埋まらず(5/1 日経新聞より)

日本企業の労働環境が改善する一方で、働き手の仕事への充実感や達成感といった「働きがい」が高まらない。1人当たりの労働時間は2020年に16年比で100時間減るなど働きやすくなったものの、仕事に熱意を持ち会社に貢献したいと考える社員の割合は6割弱と世界最下位にとどまる。政府が働き方改革を打ち出して5年あまり。生産性改善や技術革新に向けて社員の働きがいをいかに高めるかが次の課題となる。

社員の働きがい向上をめざし施策を展開する企業が増えている。JTは社員が仕事や人生で大切にする価値観について話し合う機会を設けたり、社員の推薦をもとに所長がプロジェクトを表彰したりする。

政府が16年に働き方改革を打ち出して以降、日本企業は長時間労働の是正など「働きやすさ」の面では改善が進んだ。厚生労働省によると、労働者1人当たりの年間総実労働時間は20年に1685時間と16年比5.5%減。有給休暇取得率は7.2ポイント上昇の56.6%と過去最高になった。

だが、働きがいの面では改善がみられない。社員が会社を信頼し貢献したいと考えることを「エンゲージメント(総合2面きょうのことば)」と呼ぶ。

人事コンサル大手、米コーン・フェリーがグローバル企業に20~21年に実施したエンゲージメント調査によれば、働きがいを感じる社員の割合は日本が56%と、世界平均を10ポイント下回る。23カ国中、最下位が過去6年続く。

背景には、日本企業の組織運営の改革遅れがあるとみる専門家は多い。「上意下達の組織風土や年功序列によるポスト滞留など、旧来型の日本型経営が社員の働きがい低迷に影響している」と分析する。「個人の創意工夫の範囲が狭まっていたり、現場に権限委譲が進んでいなかったりするのも要因」(リンクアンドモチベーション)との指摘もある。経団連も「社員のエンゲージメントを高める取り組みが必要」とする。

【エンゲージメント】

▽…一般には約束や契約を意味するが、人事分野では「働きがい」を指す。大きく分けて、社員と会社が信頼して貢献し合う状態を示す「従業員エンゲージメント」と、仕事にやりがいや熱意を持ち生き生きとしている状態を示す「ワークエンゲージメント」の2つがある。生産性改善や社員の離職防止などにつながるとして、重視する企業が増えている。

▽…自社のエンゲージメントの水準を測定する企業も多い。人材関連のアトラエが提供する測定サービス「Wevox」の導入企業は2200社超と、2019年9月末比で2倍になった。数値化により組織が抱える課題を客観的に把握できるようにし、改善につなげる。

▽…投資家がエンゲージメントを非財務情報として活用する動きも進む。リンクアンドモチベーションが3月にまとめた機関投資家に対する調査では、企業の開示が必要だと考える人的資本(複数回答)に「組織文化(エンゲージメント)」を挙げたのが41%と、10項目中4番目に多かった。企業側でもエンゲージメントのスコアや指標を開示する動きが出ている。

 

政府主導により「働き方改革」は進んでいます。その一方で「働きがいのある職場」であるかどうかの問題は、個人の問題ではないことに気付かされます。なぜなら、「働きがいのある職場」であるか否かを会社の生産性の向上や、投資家が投資先を選別に活用する動きが出始めているからです。日本の企業社会は「働き甲斐」を感じ難いといわれています。なぜ、日本は「働き甲斐」を感じ難いのでしょうか?その答えとして、「上意下達の組織風土」や、「年功序列によるポスト滞留」など旧来型の日本型経営が足枷になっていることが挙げられます。また、社員のモチベーションが上がらないのは、正当に評価されないことや、評価の基準が不明瞭ということも一因ではないでしょうか?

これらの弊害を排除するには、従来、曖昧にしてきた評価基準を明確にし、社員に権限を持たせるなどの工夫が必要です。また、会社と個人とのミスマッチが生じている可能性もあることから、会社は自社のビジョンやミッションを定期的に社員に伝えることが重要です。

地方回帰 女性なお慎重 男性は「東京転出超」 働きやすさで差(4/10  日経新聞より)

人口動態で男女の違いが鮮明になっている。全国から人を吸い寄せ続けてきた東京都は2021年、男性だけみれば25年ぶりに流出する人が多くなった。女性はなお流入が勝る。女性が大都市に集まりがちな傾向は、性別による暮らしやすさの差が地方社会に根強く残ることを映す。男女を問わず希望や能力に応じて多様なキャリアを実現できる環境を整えなければ地域経済の活性化はおぼつかない。

新型コロナウイルス禍でテレワークが広がり、東京の求心力は低下した。総務省によると、都内は転入者が転出者を上回る転入超過が21年に5433人と前年の6分の1近くに縮小した。性別にわけるとベクトルの違いが浮かぶ。男性は1344人の転出超過に転じ、女性は転入超過(6777人)のままだった。

女性の流入先は首都圏が目立つ。転入超過数が最も多かったのは神奈川県の1万7555人だった。埼玉県の1万4535人、千葉県の8473人が続く。転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ。

地方回帰の流れが強まったコロナ下で、女性がなお都市に集まり続けるのはなぜか。

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏は「今の若い女性はやりたい仕事が明確だが、希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」と指摘する。実際、進学や就職を機に東京に移る例が多く、年代別では10代後半や20代前半の流入が際だつ。

地方の一部に残る古い性別役割意識も影響している。国土交通省の20年の調査で、上京した女性の15%は出身地の人たちが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛同すると回答した。この割合は全体の8%の倍近い。

「地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」(ニッセイ基礎研の天野氏)。なにかと便利な都市での暮らしに慣れるほど地方に戻ろうという気持ちは薄れる。

危機感にかられた動きも出てきた。過去10年で女性比率が0.48ポイント下がった兵庫県豊岡市。女性正社員を増やす目標を掲げ、官民で就労環境の改善に取り組む。市内の宿泊業者ユラクは女性上司の割合が56%と男性より高い。不規則な勤務形態をなくすなど、性別を問わず働きやすい職場づくりを進める。

宮崎県日南市は民間出身のマーケティング専門家の下、東京のIT企業など30社以上を誘致し、地元女性の受け皿を増やした。

女性に選ばれる環境づくりが企業や地域の将来を左右する。コロナ下の人口動態は地方の意識改革を迫っている。

 

「働き方改革」を進めていくうえで、女性や高齢者が働きやすい職場環境づくりを行うことが重視されます。その結果、男女を問わない平等で好ましい職場環境が作られることになります。これまでの日本の労働環境は、働き盛りの男性中心の社会を前提として作られてきました。そのため厳しい雇用環境に耐えうる人のみが生き残っていくような働き方が評価されてきました。いわゆる男社会で会社人間しか求められてきませんでした。

しかし、少子高齢化社会となった現在の日本ではそうした力業の手法は通用しなくなっています。価値観が見直され、仕事のために生活をするのではなく、生活のために仕事をし、個人生活の充実が最優先される風潮が強まりました。男女ともに子供を産みやすく育てやすい環境を整え、女性や高齢者を活用しながら、子育てや親の介護で仕事を辞めなくてもいい制度作りを進めることこそが国の責務であり、それを受け入れることが今の経営者には求められます。

大都市には、女性が働きやすい環境とシステムが豊富である一方で、地方では女性が働きにくいハンディが厳然と存在します。女性が働き続ける前提として、当然、結婚・出産するという関門が存在します。地方の自治体や企業は、それぞれのメリットを創出しながらさらに女性が働きやすい社会を築くことに注力していくべきです。そのことが少子高齢化の中で有効に人材を活用することにつながります。

 

 

父が家事・育児、十分するには? 仕事・通勤、9時間半以内に 国立機関分析、環境づくり必須(2/17 日経新聞より)

6歳未満の子どもがいる父親が家事・育児に十分な時間を確保するためには、1日の仕事時間を9時間半以内にすることが必要――。国立成育医療研究センター(東京)は、父親の生活時間に関する分析結果を公表した。

共働き世帯の増加で父親も育児を担うことが求められており、同センターは「父親への意識啓発だけでなく、企業や社会の環境づくりも不可欠だ」としている。

同センターなどの研究班が、総務省の2016年「社会生活基本調査」のデータから(1)末子が未就学児(2)夫婦と子どもの世帯――などの条件を満たす父親約3700人を抽出して分析した。

政府は「6歳未満の子どもがいる男性の1日の家事・育児時間を20年に2時間半にする」という目標を掲げていたが、16年のデータでは1時間23分にとどまっている。

研究班は、24時間のうち睡眠や食事などに必要なのは10時間、休息などは2時間と設定。家事・育児に2時間半確保するには、仕事と通勤を9時間半以内にする必要があるとした。

16年のデータでは、父親の仕事と通勤の時間は「12時間以上」が最多の36%で、10時間以上で69%を占めた。「12時間以上」の父親の家事・育児時間は10分だけだった。

同センター研究所政策科学研究部の竹原健二部長は「父親が家事・育児に関わるほど、第2子以降の出生割合が高くなる傾向がある。仕事時間が長い人はほかに減らせる余地はなく、長時間労働をどこまで是正すればよいのか、具体的な目安として考えてほしい」と話している。

 

日本における女性の育児休業取得率は、年々増加しており8割台を推移しています。男性は2020年で過去最高の12.7%となりましたが、女性と比べると大きくかけ離れています。男性の場合は、職場環境が取得し難いことや、周りに迷惑をかけてしまうという心理的なプレッシャーもあってなかなか取得率が上がらないのが現状です。日本の育児休業制度自体は、欧米に比べても決して見劣りするものではありませんが、まだ改善の余地はあります。今年の4月からは、育児介護休業法が大幅に改正施行されることとなり、国は、助成金を準備することで男性の育児休業取得を促しています。中小企業がこれを実行するには、限られた人員の中で人を配置しなければならず、実現は容易ではありません。しかし、人手不足の中で、有能な人材を確保するためにはこうした制度の実施は不可欠です。そのため、働き方改革を通じて、経営者の意識改革の成否がキーポイントになってきます。

 

男性の育児休業助成金の相談や、育児介護休業法改正に伴う就業規則の改正のご相談は、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご連絡ください。