経営労務トピック (2021.12)

大卒外国人の採用、「高い日本語力」要求が壁 米欧は専門性重視(12/27 日経新聞より)

大卒程度の学歴で専門的な技術や知識を持つ外国人の採用に当たり、高い日本語での会話力を求める企業の姿勢が就労の壁になっている。求人の7割超が最高水準の日本語力を要求するのに対し、レベルを満たす求職者は4割弱にとどまることが26日、民間データの集計で分かった。国は「高度外国人材(総合・経済面きょうのことば)」として海外から研究者やエンジニアらの呼び込みを図るが、日本語での意思疎通を前提にした採用方針が活躍の機会を失わせている現状が浮かんだ。

米欧では会話力よりも専門性を重視した人材活用が定着している。IT(情報技術)分野などで人手不足が深刻になるなか、企業には成長の担い手を国外からも確保する姿勢が求められる。

経済産業省は、IT人材が2030年に最大79万人不足すると推計。パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「IT分野こそ海外人材の活用が不可欠だ」という。しかし、日本学生支援機構の19年度調査で、日本で就職したのは留学生の36.9%と、国が目指す5割に届いていない。

日本は職務内容を限定しない「メンバーシップ型」雇用が中心で、必要なスキルの不明確さが日本語力を過度に重視する一因になっている。

 

国は、デジタル庁を設置し出遅れたIT戦略を練り直すことで、再び国際社会のトップランナーの地位を目指しています。そのためには、IT人材を育成すること、そして最新のIT人材を呼び込むことが不可欠です。外国人労働者の日本語能力はどの程度必要なのか。このことは「メンバーシップ型」といわれる一般的な日本の雇用形態(新卒一括採用型の雇用システム総合職として雇用し、転勤や異動、ジョブローテーションを繰りかえしながら、会社を支える人材として長期的に育成する形態)を見直す契機ともなります。必要なスキルを明確にし、不必要なハードルを下げていくことが優秀な人材を呼び込むキーポイントとなります。職務分析を行い、職務を明確にすることは、働き方改革と生産性向上にも繋がります。

 

外国人雇用や在留資格のご相談は、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご相談ください。

小売り、正月休業広がる 働き方改革 ライフ全店3日まで (12/17 日経新聞より)

小売り各社の間で年始に休業する動きが広がる。食品スーパー大手のライフコーポレーションは2022年1月の正月三が日に約290の全店で原則休業する。イトーヨーカ堂は3割の店で元日に休業する。小売業の現場は新型コロナウイルスの感染対策も加わり、人手不足感が強まっている。働き方改革を進めて生産性を改善する。

ライフは22年1月1~3日に東京都、大阪府、神奈川県などの全店(商業施設内の店舗など除く)で休業する。21年1月1~2日にほぼ全店を休業したところ1月の既存店売上高は前年同月比6%増と売り上げへの影響がなかったため、22年の年始は休業日を増やす。

イトーヨーカ堂は首都圏の小型店を中心に、全店の3割にあたる38店で元日の営業を休む。21年の元日の休業店舗は全体の4分の1だったが対象を広げる。

スーパーや百貨店などの元日営業は、00年の大規模小売店舗立地法の施行などを受けて広がった。だが人手不足が強まり各社の負担が増している。帝国データバンクの7月の調査によると、小売業で多い非正規社員が「不足している」と答えた企業の割合は約5割に上った。

小売業は労働生産性が低いのも課題となっている。経済産業省によると労働生産性(従業員1人当たりの付加価値額)は496万円と製造業の半分以下にとどまる。店舗の運営を効率化し、持続可能な事業モデルにすることが求められている。

 

四半世紀前までは、元旦・正月は皆お正月参りに出かける程度で、多くの家庭では親戚の家や自宅で静かに過ごすことが一般的でした。ところが最近は、「初売り」という名の下、静けさを吹き飛ばして慌しい正月が始まり、年の節目も感じにくくなりました。しかし、「新型コロナウイルス感染予防対策」や「働き方改革」などの影響もあって、改めて「静かなお正月」を見直す契機を迎えています。年末年始は、必要不可欠な最低限の業種、業態の人のみの交替出勤制を採ることで(これもAI化が進むことで容易になります)不必要な長時間労働を止めることが可能になります。このことによりかえって労働生産性を高めることが、これからの企業の成長の鍵となるのではないでしょうか。

トヨタ労組、賃上げ要求を職種・階級別に 「脱一律」鮮明 (12/2 日経新聞より)

トヨタ自動車労働組合は2022年の春季労使交渉で賃上げの要求方式を見直す。従来の全組合員平均で要求額を出す方式は廃止する。代わりに、職種や階級ごとに細分化して要求する執行部案をまとめた。トヨタの労使交渉は「脱一律」の流れが鮮明となる。大企業の多くの労組が取り入れる組合員平均による要求を止めることで賃上げ相場のけん引役だったトヨタの役割がさらに薄れるのは必至。他の企業の賃上げ交渉にも影響を与えそうだ。

変更理由についてトヨタ労組は「(個々の組合員の)水準をわかりやすくし、組合員が当事者意識を持ちやすくするため」(幹部)と説明した。

要求内容は22年2月に正式決定する。見直し案では賃上げのベースアップ(ベア)や定期昇給が含まれる額を職種や階級ごとに要求する。例えば「事務職の指導職クラス」「(生産現場が中心の)技能職の中堅クラス」といった職種・階級ごとに要求額を出す。具体的な額は今後決める。

21年春の交渉ではトヨタ労組は全組合員平均で9200円の賃上げを要求し、会社側から満額回答を得た。ベアの要求額は19年春から非開示。組合側は22年春もベアの要求額は示さない方針だ。

 

これまで日本の団体交渉は労働組合一丸となって行う一律要求が一般的でした。日本を代表する企業労組の今回の動きは、それを変えていく発端になると考えられます。当然に他の企業にも多大な影響を与えることになります。従来、賃金の決定方法は生涯一つの企業に勤めることを前提にしており、そのうえで年更序列型の一律給料表により定められてきました。人事評価制度に一部個別の能力を評価する方法を採り入れてきた企業も、既存のやり方が通用しなくなっているということに気付き始めています。経営者側からのアプローチではなく、労働者側から変わろうとしていることに意義があります。「当事者意識」という言葉が、今回の動きのキーワードです。大企業であれ、中小企業であれ、これから100年後も生き残るための体質改善のために労使ともに知恵を出し合うことは、重要なポイントです。