経営労務トピック (2022.1)

〈春季交渉22〉ジョブ型雇用、論点に 物価2%上昇の足音 賃上げ2%超も課題(1/26 日経新聞より)

2022年の春季労使交渉が25日、事実上始まった。労働生産性の低迷が続くなか、働き方の見直しなどで付加価値を高める人的投資に関する議論が欠かせない。経営者側は働き手の職務内容をあらかじめ明確に規定するジョブ型雇用の導入などを進めたい考えだ。

ジョブ型雇用は会社の業務に最適な人材を配置する仕事主体の仕組みで専門性の高い職種などでは年齢に関係なく賃金を高くできる。人材獲得競争が激しくなるなかで導入の利点が増している。

日本生産性本部によると、20年の日本の1人あたりの労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中28位で、前年の26位から後退した。労働生産性は人件費や営業利益などの付加価値額を従業員数で割って算出する。労働生産性の改善には人的投資を中心に付加価値を高める必要がある。

経団連は今年の交渉の指針となる経営労働政策特別委員会(経労委)報告で、人材の活躍のために日本型雇用システムの見直しを加速する必要性があると訴える。

連合の芳野会長はジョブ型雇用について「人への投資につながるか、職務の切り分けがきちんとできるのかなど慎重に見極める必要がある」とする。ある産別労組の幹部も「一概に否定はしないが、それぞれの企業にあった賃金制度であることが重要だ」と話し、人件費引き下げの動きにつながることを警戒する。

企業の賃上げ余力は高水準だ。法人企業統計によると、企業の現預金など手元資金は20年に250兆円を超える。日本総合研究所の山田久副理事長は「手元資金は過去最高水準だ。22年は2%超の賃上げができるかが注目される」と指摘する。

厚生労働省によると、21年の賃上げ率は1.86%と8年ぶりに2%を下回った。今年4月に携帯通信料の値下げ効果が一巡すると物価上昇率が2%に迫るとの予測がある。賃上げ率が2%を上回らなければ、「生活水準が低下する状況だ」(日本総研の山田氏)との声もある。

原材料高などの影響もあって、製造業を中心に先行きの見通しが悪化している。コロナ禍の最中での交渉となった21年のように、今回も変異型「オミクロン型」の感染拡大もあって交渉が難航する可能性もありそうだ。

 

これまで日本の労働組合は、製造業を中心に企業毎に団体交渉することで、一括・一律に賃金引き上げを要求してきました。ところが最近では、トヨタ労組のように賃上げ要求を職種・階級別に行うところも出てきました。従来、日本の企業は、労働生産が低いといわれてきました。しかし、ここに来て、企業も労働者も「一律、一括」を止める時期が到来しています。職種や能力によって差別化を図り、優秀な人材を国内はもとより海外からも招聘する必要があります。企業が優秀な人材を集めるために不可欠なのは、労働者の能力を客観的に正当に評価することです。能力を正当に評価されることで、労働者自身もさらに能力を向上させることが求められます。ジョブ型雇用にもまだまだ問題点はありますが、雇用者側にとっても、労働者側にとっても新たなチャンスを掴むきっかけとなる制度です。導入の検討が推奨できる制度といえます。

女性就労、もう一つのM字 労働時間差が映す男女不平等(1/16 日経新聞より)

働きやすさのジェンダー格差が根強く残っている。日本は仕事を持つ女性の比率が結婚・出産期に落ち込む「M字カーブ」がなだらかになる陰で、労働時間は二極化したままだ。女性はフルタイムと短時間の2つの山による「もう一つのM字カーブ」が浮き出る。性別によらず能力を発揮できる環境を整えなければ人口減少による成長力の低下に拍車がかかりかねない。

働く女性は増えている。総務省の労働力調査によると、就業者と職探し中の人を合わせた労働力人口の割合(労働参加率)は1990年に30~34歳で52%だった。2020年には78%に高まった。

性別による差がなくなったわけではない。労働時間の分布からは、なお残る社会のひずみが見て取れる。20年に男女ともに最も多い就業時間は週40~48時間だった。男性で46%、女性で32%を占める。次いで多いのは男性が49~59時間(14%)なのに対し、女性は15~29時間(26%)に1~14時間(14%)が続く。

週5日勤務で計算すると、男性は1日8時間以上働く人が就業者の7割を占める。女性は4割にとどまる。女性は非正規雇用が多いことが背景にある。

厚生労働省の調査で、女性が正社員以外で働く理由として最も多かった回答は「家庭の事情と両立しやすい」(41%)だった。10年に子供が生まれた世帯を追跡すると母親の常勤比率は出産を挟んで38%から25%に下がった。この数字は10年たっても3ポイントしか戻らなかった。逆にパート・アルバイトの比率は産前の19%から42%に拡大した。

「日本は正社員で働く負担があまりに重い」と日本女子大学の大沢真知子名誉教授は指摘する。日常的に残業があり、定時で帰れることは少ない。キャリアパスとして定着してきた国内外の転勤は家庭生活との両立が難しい。そのしわ寄せが女性に偏る。「家事、育児は女性が担う」という古い役割意識も残る。

国際労働機関(ILO)によると、週平均の労働時間の性差は主要7カ国(G7)で日本が最も大きく、10時間を超える。米国やフランスは5時間ほどだ。

慶応大学の山本勲教授らが10~15年の上場企業のデータを調べたところ、女性の管理職登用率が0.1ポイント上がると総資産利益率(ROA)が約0.5%、生産性が13%高まる関係がみられた。登用率が15%を上回ると企業業績が明確に向上する傾向もあった。「昇進の可能性が開かれることでモチベーション向上を通じ生産性が高まっているようだ」と分析する。

 

 

日本の少子高齢化の問題と女性の労働参加率は、密接な相関関係があります。以前からこの「M字型カーブ」については指摘されており、欧米のように台形に近づいてきているとはいえ、まだまだ問題があることが分かります。国もこれを放置しているわけではなく、働き方改革を促したり、育児休業法を改正したり、さまざまな助成金を準備したりすることで子育てのし易い職場環境づくりを促しています。

出産を支援する環境を整えたうえで、男性女性問わず子育てに参加できる職場を作ることは現代の経営者にとっては責務となっています。人口が減り続けることによる経済損失は計り知れないものがあります。日本の人口減少を他人事と思わずに自分の問題として真摯捉えることが求められます。

 

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日立、全社員ジョブ型に 社外にも必要スキル公表 高度人材、内外から募る (12/10 日経新聞より)

日立製作所は7月にも、事前に職務の内容を明確にし、それに沿う人材を起用する「ジョブ型雇用を本体の全社員に広げる。管理職だけでなく一般社員も加え、新たに国内2万人が対象となる。必要とするスキルは社外にも公開し、デジタル技術など専門性の高い人材を広く募る。年功色の強い従来制度を脱し、変化への適応力を高める動きが日本の大手企業でも加速する。

ジョブ型は欧米では一般的な働き方で、職務記述書(ジョブディスクリプション)で職務ごとに必要なスキルを明記する。賃金も基本的には職務に応じて決まり、需要が大きく高度な職務ほど高くなる。

働き手にとってはスキルの向上が重要になる。事業環境の変化が速まるなか、企業が必要とする能力を身につければ転職もしやすくなる。

日本では職務を限定しない「メンバーシップ型雇用」が多い。幅広い仕事を経験する総合職型で、終身雇用と一体で運用されてきた。

日立の狙いは、必要な人材を社外から機動的に募ることと、個々の社員のレベルアップだ。年功制や順送り人事の壁を取り払い、管理職の約1万人とあわせ本体3万人が全面的にジョブ型にカジをきる。

人材の専門性が乏しく流動性が低いメンバーシップ型は日本の生産性が低迷する一因ともされている。

ジョブ型が多くの企業に広がれば個別企業の競争力の向上にとどまらず、労働市場全体の人材の適正配置を通じ、日本の生産性を底上げすることが期待できる。

 

日本では、加速する少子高齢化によって労働人口も減少していきます。そこで、今後も経済の維持、発展を継続するためには従来の働き方を見直す必要があります。近時、日本の企業の生産性を向上させることの重要性が主張されています。企業は漫然と行ってきた年更序列型賃金制度を根本から見直し、職務の内容や成果によって賃金を決定することが求められます。また、従業員にとっては、常に学び続け能力を向上させなければなりません。その実現には、企業、従業員のいずれにも意識改革が必須のことになります。

福岡県久留米市まつもと経営労務officeは、成長する企業のお手伝いをしていきます。

起業失敗でも失業手当 権利3年延長 安全網強化、挑戦促す (1/7 日経新聞より)

厚生労働省は会社を辞めて起業した場合、失業手当を受給する権利を最大3年間保留できるようにする。現在の受給可能期間は離職後1年間だけで、その間に起業すると全額を受け取れない課題があった。終身雇用の慣行に沿った制度を一部見直すことで安全網を広げ、多様な働き方を後押しする。経済を活性化するスタートアップが生まれやすい環境を整える。

労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の部会が近くまとめる雇用保険制度改正の報告書に盛り込む。厚労省は17日召集予定の通常国会に雇用保険法などの改正案を出す。

雇用保険に一定期間加入した人は、離職の翌日から1年間は求職活動中に失業手当を受け取れる権利がある。その間に起業したもののうまくいかなかった場合、受給可能期間が経過し、権利を失う例が多かった。

そこで1年間に加え、手当を受け取る権利を3年間保留できる特例を設ける。起業した会社の廃業後に就職活動に取り組むことを条件に日額上限で約8300円を支給する。権利を持ち越すだけで受給額などは変わらない。妊娠や出産などで求職活動ができない場合に同様の特例があり、それに沿った制度にする。

厚労省によると、海外ではドイツやスウェーデンなどで起業者やフリーランスらが任意で失業保険に加入できる例がある。日本の労働法制は原則、企業に雇われる労働者を前提に制度設計されている。

 

日本の開業率は、欧米諸国と比べるとかなり低い水準にあるといわれています。その理由の一つとして企業が失敗した際のセーフティネットが整備されていないことが挙げられます。中小企業白書によれば、開業率とGDPとの間には正の相関関係がみられ、開業率が高く、起業者がより多くなるほどGDPや経済に良い影響があることが分かっています。英国では、2010年から開業率の上昇が続いていますが、この背景には、英国政府による包括的な中小企業向け支援施策の充実があります。今回、手当を受け取る権利を3年間保留できる特例を設けることは、起業支援策の一つとして評価できます。起業を目指す人はこうした支援策を把握する必要があります。

 

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