2022年の春季労使交渉が25日、事実上始まった。労働生産性の低迷が続くなか、働き方の見直しなどで付加価値を高める人的投資に関する議論が欠かせない。経営者側は働き手の職務内容をあらかじめ明確に規定するジョブ型雇用の導入などを進めたい考えだ。
ジョブ型雇用は会社の業務に最適な人材を配置する仕事主体の仕組みで専門性の高い職種などでは年齢に関係なく賃金を高くできる。人材獲得競争が激しくなるなかで導入の利点が増している。
日本生産性本部によると、20年の日本の1人あたりの労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中28位で、前年の26位から後退した。労働生産性は人件費や営業利益などの付加価値額を従業員数で割って算出する。労働生産性の改善には人的投資を中心に付加価値を高める必要がある。
経団連は今年の交渉の指針となる経営労働政策特別委員会(経労委)報告で、人材の活躍のために日本型雇用システムの見直しを加速する必要性があると訴える。
連合の芳野会長はジョブ型雇用について「人への投資につながるか、職務の切り分けがきちんとできるのかなど慎重に見極める必要がある」とする。ある産別労組の幹部も「一概に否定はしないが、それぞれの企業にあった賃金制度であることが重要だ」と話し、人件費引き下げの動きにつながることを警戒する。
企業の賃上げ余力は高水準だ。法人企業統計によると、企業の現預金など手元資金は20年に250兆円を超える。日本総合研究所の山田久副理事長は「手元資金は過去最高水準だ。22年は2%超の賃上げができるかが注目される」と指摘する。
厚生労働省によると、21年の賃上げ率は1.86%と8年ぶりに2%を下回った。今年4月に携帯通信料の値下げ効果が一巡すると物価上昇率が2%に迫るとの予測がある。賃上げ率が2%を上回らなければ、「生活水準が低下する状況だ」(日本総研の山田氏)との声もある。
原材料高などの影響もあって、製造業を中心に先行きの見通しが悪化している。コロナ禍の最中での交渉となった21年のように、今回も変異型「オミクロン型」の感染拡大もあって交渉が難航する可能性もありそうだ。
これまで日本の労働組合は、製造業を中心に企業毎に団体交渉することで、一括・一律に賃金引き上げを要求してきました。ところが最近では、トヨタ労組のように賃上げ要求を職種・階級別に行うところも出てきました。従来、日本の企業は、労働生産が低いといわれてきました。しかし、ここに来て、企業も労働者も「一律、一括」を止める時期が到来しています。職種や能力によって差別化を図り、優秀な人材を国内はもとより海外からも招聘する必要があります。企業が優秀な人材を集めるために不可欠なのは、労働者の能力を客観的に正当に評価することです。能力を正当に評価されることで、労働者自身もさらに能力を向上させることが求められます。ジョブ型雇用にもまだまだ問題点はありますが、雇用者側にとっても、労働者側にとっても新たなチャンスを掴むきっかけとなる制度です。導入の検討が推奨できる制度といえます。