経営労務トピック (2022.5)

三菱ケミ、在宅無期限で 社員1割対象 出社不要、多様な人材確保(5/18 日経新聞より)

三菱ケミカルホールディングス(HD)は出社不要の「完全テレワーク制度」を期限を区切らずに始めた。本社とその周辺で働くオフィス従業員を中心に、全体の1割に当たる4200人が対象となる。IT(情報技術)企業では導入例があるが、国内製造業では珍しい。働きやすい環境を整えてデジタル関連などの多様な人材を呼び込む。

本社とその周辺で働き、主に事務や営業、システム開発などに携わる従業員が対象。義務ではなく、希望すれば働きやすくなるよう働き方の選択肢を広げる施策となる。安全運転のため24時間3交代制を採っている工場などには適用しない。

従来は社内規定で「週1回以上は出社する」と明記していた。新型コロナウイルスの流行が拡大した2020年春に特例で完全テレワークを認めた。制度の対象となる都内拠点では現在、従業員の7割程度が在宅勤務もしくはサテライトオフィスで遠隔勤務をしている。テレワークが浸透したため今年4月から恒久的な運用に切り替えた。

介護や育児中の社員が働きやすくなる一方で、完全テレワークは社内でのコミュニケーションが大幅に減る恐れがある。三菱ケミカルHDは上司と部下の面談を密にするほか、オンライン方式の非公式な会合を推奨するなどして課題に対応していきたい考えだ。

新型コロナウイルス災厄を経験したことで、テレワークが浸透しました。これによって、出社することが当たり前だった働き方が見直され始めています。テレワークを認めることによって様々な波及効果が生まれます。

具体例として、従業員の通勤の負担を減らし効率的に業務を行えることや、育児や介護中の従業員が働きやすくなることなどが挙げられます。テレワークを導入し、多様な働き方を認めることで、人手不足を嘆いている企業にも対応策の可能性が出てきます。ただし、業種や業態によっては、テレワークが馴染まない企業や部署もありますし、テレワークを採用するのであればその労務管理の問題もクリアーしなければなりません。従業員間のコミュニケーションの問題や、従業員教育の問題など、テレワーク導入前に十分な議論や準備をすることも不可欠です。また、就業規則の中にテレワークに関する規定を盛り込む必要もあります。今後コロナが完全に終息したとしてもテレワークのメリットを享受すれば、コロナ禍以前の働き方に完全に戻すことはできなくなります。

「働きがい改革」道半ば 「仕事に熱意」6割弱どまり 海外と差埋まらず(5/1 日経新聞より)

日本企業の労働環境が改善する一方で、働き手の仕事への充実感や達成感といった「働きがい」が高まらない。1人当たりの労働時間は2020年に16年比で100時間減るなど働きやすくなったものの、仕事に熱意を持ち会社に貢献したいと考える社員の割合は6割弱と世界最下位にとどまる。政府が働き方改革を打ち出して5年あまり。生産性改善や技術革新に向けて社員の働きがいをいかに高めるかが次の課題となる。

社員の働きがい向上をめざし施策を展開する企業が増えている。JTは社員が仕事や人生で大切にする価値観について話し合う機会を設けたり、社員の推薦をもとに所長がプロジェクトを表彰したりする。

政府が16年に働き方改革を打ち出して以降、日本企業は長時間労働の是正など「働きやすさ」の面では改善が進んだ。厚生労働省によると、労働者1人当たりの年間総実労働時間は20年に1685時間と16年比5.5%減。有給休暇取得率は7.2ポイント上昇の56.6%と過去最高になった。

だが、働きがいの面では改善がみられない。社員が会社を信頼し貢献したいと考えることを「エンゲージメント(総合2面きょうのことば)」と呼ぶ。

人事コンサル大手、米コーン・フェリーがグローバル企業に20~21年に実施したエンゲージメント調査によれば、働きがいを感じる社員の割合は日本が56%と、世界平均を10ポイント下回る。23カ国中、最下位が過去6年続く。

背景には、日本企業の組織運営の改革遅れがあるとみる専門家は多い。「上意下達の組織風土や年功序列によるポスト滞留など、旧来型の日本型経営が社員の働きがい低迷に影響している」と分析する。「個人の創意工夫の範囲が狭まっていたり、現場に権限委譲が進んでいなかったりするのも要因」(リンクアンドモチベーション)との指摘もある。経団連も「社員のエンゲージメントを高める取り組みが必要」とする。

【エンゲージメント】

▽…一般には約束や契約を意味するが、人事分野では「働きがい」を指す。大きく分けて、社員と会社が信頼して貢献し合う状態を示す「従業員エンゲージメント」と、仕事にやりがいや熱意を持ち生き生きとしている状態を示す「ワークエンゲージメント」の2つがある。生産性改善や社員の離職防止などにつながるとして、重視する企業が増えている。

▽…自社のエンゲージメントの水準を測定する企業も多い。人材関連のアトラエが提供する測定サービス「Wevox」の導入企業は2200社超と、2019年9月末比で2倍になった。数値化により組織が抱える課題を客観的に把握できるようにし、改善につなげる。

▽…投資家がエンゲージメントを非財務情報として活用する動きも進む。リンクアンドモチベーションが3月にまとめた機関投資家に対する調査では、企業の開示が必要だと考える人的資本(複数回答)に「組織文化(エンゲージメント)」を挙げたのが41%と、10項目中4番目に多かった。企業側でもエンゲージメントのスコアや指標を開示する動きが出ている。

 

政府主導により「働き方改革」は進んでいます。その一方で「働きがいのある職場」であるかどうかの問題は、個人の問題ではないことに気付かされます。なぜなら、「働きがいのある職場」であるか否かを会社の生産性の向上や、投資家が投資先を選別に活用する動きが出始めているからです。日本の企業社会は「働き甲斐」を感じ難いといわれています。なぜ、日本は「働き甲斐」を感じ難いのでしょうか?その答えとして、「上意下達の組織風土」や、「年功序列によるポスト滞留」など旧来型の日本型経営が足枷になっていることが挙げられます。また、社員のモチベーションが上がらないのは、正当に評価されないことや、評価の基準が不明瞭ということも一因ではないでしょうか?

これらの弊害を排除するには、従来、曖昧にしてきた評価基準を明確にし、社員に権限を持たせるなどの工夫が必要です。また、会社と個人とのミスマッチが生じている可能性もあることから、会社は自社のビジョンやミッションを定期的に社員に伝えることが重要です。