経営労務トピック (2022.7)

下り坂にあらがう〈1〉縮む国「人財投資」で復活(7月26日 日経新聞より)

スウェーデンでは子が8歳になるまで、両親が合計480日の有給育児休暇を取得できる。オリビエさんが約6割、妻が残りを取得したという。

社会全体で負担

スウェーデンが社会保障先進国になったのは、90年前の経験がある。19世紀以降に「多産多死」から「少産少死」への転換が進み、スウェーデンの出生率は大恐慌のころ、当時の世界最低水準ともいわれた1.7程度まで落ち込んだ。国の針路を変えたのがノーベル賞経済学者グンナー・ミュルダールだ。

当時の世論は二分していた。「女性の自由を制限してでも人口増につなげるべきだ」「人口減は人々の生活水準を高めるので歓迎だ」。ミュルダールはどちらの主張も批判し、出生減を「個人の責任ではなく社会構造の問題」と喝破した。

人口減に警鐘を鳴らした1934年の妻との共著「人口問題の危機」を機に政府は人口問題の委員会を立ち上げ、ミュルダールも参加した。38年までに17の報告書をつくり、女性や子育て世帯の支援法が相次ぎ成立した。これがスウェーデンモデルと呼ばれる社会保障制度の基礎となった。

74年には世界で初めて男性も参加できる育休中の所得補償「両親保険」が誕生した。妊娠手当、子ども手当、就学手当などの支援は手厚く、大学までの授業料や出産費も無料だ。育児給付金は育休前の収入の原則8割弱。税負担は重いが「十分な恩恵を得られる」(オリビエさん)。

女性の就業率は高く、現政権の閣僚も半数が女性だ。家族支援のための社会支出は国内総生産(GDP)比で3.4%と、米国(0.6%)や日本(1.7%)をはるかにしのぐ。

「90年の大計」をもってしても少子化に抗するのは簡単ではない。それでも少子化対策は未来への投資だ。「ミュルダールは特に若い層向けの福祉政策を人的資本の投資ととらえ、生産性を高める経済政策を兼ねると考えた。その理念は今も生きている」(名古屋市立大の藤田菜々子教授)

スウェーデンと並び少子化対策の成功例とされるフランス。100年以上の悲願だったドイツとの人口再逆転を、今世紀中に達成する見通しだ。

仏は19世紀前半に独に人口逆転を許し、19世紀後半の普仏戦争敗北は「人口で負けたからだ」との危機感が染みついた。仏は「仕事と家庭の両立」を軸に社会制度を大きく見直した。ドイツは「子供の面倒を見るのは母親だ」という保守的な家族観が一部に残る。

国連が7月に改定した人口推計で、世界人口の年間増加率が統計を遡れる1950年以降で初めて1%を割った。人口減は世界共通の課題だ。

(一部抜粋)

                                            

人口問題、少子化対策については、スウェーデンもフランスも一朝一夕で成功してきたのではありません。出生減は、「個人の責任ではなく、社会構造の問題」という言葉を重く捉え日本も本腰を入れて対策するべきです。

それにもかかわらず、少子化対策や、若者への政策を重視すると高齢者から嫌われるのではないかと選挙の結果を恐れ、それを声高に叫ぶのを躊躇する政治家が少なくないようです。少子化対策は成果が直ぐにでる政策ではないため、スウェーデンやフランスの例のように長期的な観点から腰を据えて行う必要があります。

社会保障問題を政争の具にするのではなく、政党を超えて議論するべきです。

高齢者も日本の社会保障制度が、現在の若者によって支えられていることを自覚する必要があります。

スウェーデンやフランスの成功例も参考にするべきですが、そのまま取り入れるかどうかは、日本のこれまでの歴史的背景や国民性も考慮して検討しなければなりません。

日本の育児環境は、お金が掛かりすぎることから子供を産むのを躊躇する家庭もあるでしょう。まずは、これまで以上に出産手当や育児休業手当を手厚くし、育児休業制度を充実させることで育児環境を整備することが求められます。教育制度については、どこまで無償化を進めるか議論する必要があります。高等教育に関しては、一律に免除するのではなく、優秀な人材に対する経済的なハンディを排除する制度設計が重要です。

 

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進まぬ男性育休、職場の壁なお 取得1割どまり 収入減の不安も 理解不十分、嫌がらせ経験(7月6日 日経新聞より)

男性の子育て参加がなかなか進まない。男性が育児や家事にかける時間は海外と比べ短く、育児休業の取得率は1割にとどまる。育休取得を巡り職場の理解を得る壁はなお高く、休業中の収入減への不安も根強い。男女を問わず働きやすい社会の実現に向け、子育て支援を巡る参院選の論戦が注視されている。

「男性の育休取得率が低いのは社内の空気を読み合っているから」「育児・家事に参画するとマネジメント力も育まれる」

6月、部下の育児と仕事の両立を応援する管理職や経営者「イクボス」を増やそうと山梨県が開いた研修会。育休の効果や取得を促す方法を専門家が解説し、オンラインも含めた50人超の参加者からは「育休を取るメリットをどう伝えたらいいか」と質問も出た。

公務員の50代男性は「男性の育休取得は生産性の向上にも有効という解説は新鮮だった。職場全体へ浸透させたい」と話す。各自治体はこうした研修会を開き、管理職らへの啓発を急ぐ。背景には職場の理解が十分には広がっていない状況がある。

育休などを理由にした男性社員への嫌がらせは「パタニティーハラスメント(パタハラ)」と呼ばれる。厚生労働省が2020年10月に実施した調査では、過去5年間に育休などを利用しようとした男性500人のうち26.2%が「ハラスメントを受けた」と回答した。このうち5割超は「制度利用を妨げる上司の言動」という内容だった。

東京都内のIT(情報技術)関連企業に勤める男性会社員(35)は21年、長男の誕生に伴い育休の取得を上司に相談したところ「前例がない」「業務を引き継ぐ人がいない」と言われたという。男性は「育休が取りやすくなるよう国にはもっと旗を振ってほしい」と話す。

父親の取得促進を掲げ、父母双方が取得した場合の育休期間の延長を認めた改正育児・介護休業法の施行は10年。男性の取得率は少しずつ上昇しているものの、20年度で12.6%にとどまる。8割を超える女性の取得率との差はなお大きい。

同法はさらに改正され、4月から従業員への制度周知が企業に義務付けられた。10月には子の出生後8週間以内に4週間まで育休を分割取得できる父親専用の制度も新設される。厚労省担当者は「利用が広がるかは管理職の意識改革がカギになる」とみる。

職場の理解に加え、収入減を不安視する人も多い。人材大手のパーソルキャリア(東京・千代田)は21年、将来子どもを望む20~50代に育休取得での「心配なこと」を複数回答で尋ねた。男女とも「収入が減るかもしれない」が4割を超え最多だった。

育休中は、状況に応じて給与の50~67%に相当する育児休業給付金を雇用保険から受け取れる。同社担当者は「住宅ローンの支払いなどがある場合は不安が消えない」と分析する。

男性の育休取得率100%の企業でも課題が見えてきた。育休取得に奨励金を出している中部地方の精密部品会社では近年、子が産まれた男性社員は全員育休を取った。制度上は最長2年間休めるが、これまで最も長く休んだケースでも10日間だった。

社員の間には「職場は休みやすい雰囲気だが長期間離れた例がない。復帰できるか不安」という声が根強いという。男性社長は「長く休んでも仕事に戻りやすいように技能を磨き直す機会を増やしていきたい」と話す。

今回の参院選では、男性の育休取得を含めて子育てと仕事の両立を支援する政策を示す政党が多く、演説で時間を割く候補者もいる。

NPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は「誰もが働きやすい環境整備に向け、男性の育休推進は重要な取り組みだ。少子化を食い止め、生産性を上げる『好循環』にもつながる」と指摘する。参院選での論戦を通じ「収入減などを国の支援で補える制度の充実を期待したい」と話した。

                                         

男性の育児休業取得率を上げるためには、3つの壁をクリアする必要があります。

1つ目は、職場上司の理解、2つ目は育児休業中の収入の確保、3つ目は育児復帰後のキャリアを支援です。

これまで仕事一筋で頑張ってきた上司の中には男性の育児休業を理解し難いという価値観の人が多いのが現状です。こうした人達に研修や社内広報等を通じて男性も育児にかかわることの重要性を理解させることが必要です。2つ目の壁を打ち破るには、育児休業給付金に加えて企業がどれだけ支援できるかに掛かってきます。大企業では既に育児休業中は、一部有給扱いにする動きが出てきました。中小企業の場合には、これからの国の支援が不可欠になります。3つ目の壁の対策には、育児休業に入る前に面談を実施することが重要です。その上で育児休業を安心して取得できるように代替え要員を確保することが求められます。加えて、育児休業中の情報の提供や復帰後にスムーズに職場に戻れるようにキャリア支援をすることで従業員は、育児に専念することが可能になります。

国は、本気で出生率を上げたいと思うのなら選挙期間中のみ子育て支援を叫ぶのではなく、具体的に効果的な子育て支援策を実行していくべきです。

今日は参議院議員選挙の投票日です。私たちも国の政策を見極めるために、積極的に当事者意識を持って選挙に行く必要があります。近年、若い人の政治離れや投票率の低さが指摘されています。自分たちの1人1人の投票行動によって将来の国の行く末が決まり、自分たちの生活が影響を受けるということを自覚するべきです。出生率向上のためには本気で取り組む姿勢の見極めも選挙の際の選択肢として考えてほしいものです。

 

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