コラム (2021.7)

仕事に関する契約の多様化(2)

請負契約とは?

「請負契約」とは、特定の業務を完成させることを定めた契約のことです。準委任契約とは異なり、業務を受ける側は業務を完成させ、成果物を収める義務があります。その成果物の対価として、報酬が支払われることになるのが請負契約です。一般的にいわれる「成功報酬」タイプの契約をイメージしてもらえばよいのかと思います。

 

準委任契約の種類

債権法分野を中心に大改正が行われた民法が2020年4月1日に施行されました。改正民法では、委任契約(準委任契約)は2種類に分けて定義されました。それが、以下の2つのパターンです。

履行割合型

成果完成型

それぞれの特徴について、見ていきます。

・履行割合型

まず今回の民法改正によって規定されたパターンとして、割合に応じた報酬を支払うことになる「履行割合型」があります(民法648条3項)。履行割合型とは、事務処理の「労務」の対価として報酬を支払う形式になります。入力業務や会計業務といった事務処理業務において、業務時間や工程数などの業務量に応じて報酬が支払われる契約です。従来の民法のルールでは、委任が中途で終了した場合に報酬が請求できたのは、「受任者の責(せめ)に帰することができない事由」に限って、既に履行した部分の割合に応じて報酬を請求することができるとされていました。これは労働者側の問題ではない理由に限って履行した部分の割合に応じて報酬を請求することができるということです。それが、民法の改正によって受任者の帰責事由の有無にかかわらず、責任の有無にかかわらず、履行の割合に応じた報酬を請求できるようになりました。

 

・成果完成型

次に改正民法に規定されたパターンが、「成果の引渡しと同時の報酬支払」「成果報酬を約した場合の割合に応じた報酬」です(民法648条の2)。成果完成型とは、事務処理の「成果」の対価として報酬を支払う形式になります。請負契約と同様の成功報酬タイプといえます。改正民法によって、仕事を受けた側(受任者)は、完成が不能となった場合や、何らかの理由で契約解除になった場合であっても、委任者が受ける利益の割当に応じた報酬を請求できるようになりました。

実は準委任契約でも仕事の成果物を納品することで契約完了とする「請負」に類似する契約形態にする場合があります。ところが、改正前の民法には、準委任契約で成果に対して報酬を支払う合意がある場合の規定がありませんでした。それが、今回の民法改正によって、成果完成型で準委任契約を受けた場合に、仕事を受けた側(受任者)は、成果の引渡しと同時に報酬を請求することができるようになりました。また、何らかの理由によって途中で契約解除になった場合であっても、既に履行した部分については報酬を請求できることが規定されました。

 

準委任契約と請負契約の違い

業務内容や報酬条件に応じた適切な契約を締結するには、各々の契約形態の特徴を理解する必要があります。そこで、準委任契約と請負契約の違いについて比較してみます。

準委任契約と請負契約の義務や責任範囲には、以下のような違いがあります。

 

1.仕事の完成義務

準委任契約と請負契約についての仕事に対する完成義務の有無は両者の最も大きな違いです。「請負契約」では、受任者は引き受けた業務を完成させて、納品する義務があります。

これに対し、「準委任契約」では、受任者は業務を遂行すること自体が目的であり、業務を完成させる義務は発生しません。準委任契約は、顧客のところに駐在するタイプの作業で結ばれるケースが多いようです。IT関連の開発業務で開発の工程によって契約形態を変更する場合、基本設計、受け入れテストなどの作業過程では準委任契約が選択されることがあります。

「入学すれば必ず入学者全員を資格試験に合格させる」と謳って入学させた場合、これは請負契約にあたります。この文言を厳格に解すると、1人でも合格しなかった場合には、成果報酬なしという結果になってしまいます。こうしたことを考慮すると、請負契約は、達成するべき内容が確定していない業務や達成が非常に困難な業務については適していないといえます。ハイリスク、ハイリターンのギャンブル的な性格を有する場合があるからです。

 

2.契約不適合責任(瑕疵担保責任)

契約不適合責任とは、契約において商品に欠陥や品質不良、数量不足などの不備があった場合に、受任者が負う責任のことをいいます。改正前の民法の規定では、「瑕疵(かし)担保責任」と呼ばれていましたが、民法改正によって「契約不適合責任」という名称に変わりました。これまで使われてきた「瑕疵」という表現が専門的で日常的にあまり使うことのない表現であることから内容の理解しやすい「契約不適合」という表現に改められました。「請負契約」においては、契約不適合者の責任が発生しますが、「準委任契約」においては発生しません。また、改正前民法の下では、瑕疵担保責任の対象は特定物に限るとされていましたが、改正後は、特定物・不特定物を問わず契約不適合責任の規定が適用されることになります。

(仕事に関する契約の多様化(3)に続く)

久留米大学法学部 教授 松本 博

仕事に関する契約の多様化(1)

雇用契約とは?

企業(会社や個人商人)が従業員を雇う際の契約は、一般的には、「雇用契約」です。雇用契約とは、労働者が雇用者の労働に従事し、雇用者は労働の対価として報酬を与える契約です。

雇用契約以外の仕事に関する契約としては、「請負契約」や「委任契約」があります。雇用契約の場合は、労働者は雇用者の指揮・命令に従って仕事をすることになりますが、請負契約や委任契約では、雇用主の指示ではなく自らの判断で独立して仕事をすることになります。契約当事者を「タテ」の関係で捉えたものが、「雇用契約」、「ヨコ」の関係で捉えたものが、「請負契約」・「委任契約」というイメージで考えてください。これらの契約類型はいずれも民法に規定されています。

これまでの日本における仕事に関する契約は、その多くが「雇用契約」でした。ところが、民法改正、働き方改革、そして新型コロナの影響によるテレワークの定着によって、仕事に関する契約の多様化が一気に進む状況に至っています。

 

雇用契約と請負契約・委任契約の違い

「雇用契約」を締結する労働者は、労働基準法や労働契約法といった法律により、保護されています。雇用契約を締結している労働者は、法律に基づいて有給休暇や残業代が請求できますし、雇用者側の一方的な都合で解雇することはありません。これは、法律に基づいて、労働者に認められた権利なので、たとえ雇用契約書に「当社においては有給休暇が認められません」といった規定があったとしても、そのような記載は無効となります。法律は、一般的に弱い立場の労働者を保護しているためです。

ところが、「請負契約」や「委任契約」によって仕事をする人の場合には、「雇用契約」を前提とする労働基準法などの保護の対象外となります。また、雇用契約の場合は会社に社会保険料の負担分が発生しますが、請負契約や委任契約の場合にはそうした負担はありません。そのため、雇用主が意図的に請負契約や委任契約という形式で従業員との契約を結ぼうとすることも考えられます。しかし、その場合でも、その契約が雇用契約なのか、あるいは請負契約や委任契約なのかは、契約書の表面的な記載から決まるわけではありません。

実際に、委託者と受託者との関係が指揮・命令の関係にあるのか、対等な立場にあるのかその内容を総合的に判断して契約の性質が判断されます。

具体的には、

・受託者が委託者のみならず他者からも仕事を受けることが可能な状態であるのか

・受託者が委託者の指揮・命令を受けずに自分自身の判断で業務を行っているのか

・仕事に必要な施設、機材や材料を受託者自身が準備しているのか

といったことを検討することになります。

 

「会社に就職する際に、請負契約や委任契約と記載されている契約書を渡された」場合は、表面的な文言に捉われずその契約の内容をよく吟味して、実質的にはそれが雇用契約にあたるのではないのかを検討する必要があります。

 

委任契約・準委任契約とは?

「準委任契約」とは、特定の業務を遂行することを定めた契約のことです。特定の業務を遂行することを定めた契約ですが、業務が法律行為であれば「委任契約」、法律行為以外の業務であれば「準委任契約」になります。委任・準委任契約では、業務を依頼する側を「委任者」、業務を受ける側を「受任者」といいます。

準委任契約は、特定の業務の遂行が目的であり、仕事の結果や成果物に対して完成の義務を負うことはありません。業務の結果に対して不備があったとしても、委任者は受任者に対して修正や保証を求めることができません。

 

業務委託契約とは?

「業務委託契約」とは、自社で遂行できない特定の業務を、他の企業や個人に委託する契約のことを指します。企業に勤める従業員のように雇用契約を結ばずに、特定の業務に限って締結される契約です。業務委託契約では、特定の業務のみを依頼できるため、自社が持っている技術力や人的資源では困難な特殊な業務を外部に任せたいときに使われることになります。

具体例として、IT関連システムや事業用ソフトの開発といった業務が挙げられます。業務委託契約の特徴としては、仕事を依頼する側に指揮・命令権が発生しないことがあります。指揮・命令権とは、労働者に対して業務上の指示や命令を行う権利のことです。たとえば、企業と雇用契約を結んでいる正規の従業員の場合には、指揮・命令権がある雇用者から業務上の指示や命令を受けて仕事を進めます。これに対して、業務委託契約(委任契約・準委任契約および請負契約)の場合には、発注側には指揮・命令権がないため、業務の進行や労働時間、勤務形態などに関して原則として指示を行うことはできません。

業務委託契約において業務を依頼する側は、自社の人的・設備的な資源不足を補えるだけではなく、その分野における専門家に依頼することで、質の高い成果を期待できるというメリットがあります。

業務委託契約は、大きく2種類に分けることができます。「請負契約」と「委任契約・準委任契約」です。つまり、準委任契約は、業務委託契約のうちの一つということになります。

(仕事に関する契約の多様化(2)に続く)

 

久留米大学法学部 教授 松本 博

週休3日制の導入

週休3日制とは

週休3日制とは、読んで字の如く、現状では多く企業が採用している週休2日制から、休みの日を1日増やして1週間あたりの休みを3日とする制度のことです。 現時点でYahoo! ジャパンやファーストリテイリング、みずほフィナンシャルグループなどで採用されていますが、多様な働き方が可能な制度と考えられています。

最近、週休3日制の導入論を目にすることが増えました。週単位での業務処理で考えると、週休3日制では1週間あたりの休日を1日増やすことになるわけですが、この場合には、これまで週5日で処理していた仕事を週4日で済ませる必要が生じます。

本年4月5日には加藤勝信官房長官が「選択的週休3日制」の導入について検討する旨の考えを示しました。ここでいう選択的とは、本人の希望によって週休3日で働くことが可能になることを意味しています。

その後、6月18日に発表された骨太方針2021において選択的週休3日制の推進が盛り込まれました。ワークライフバランスが重視されるようになり、育児や介護、自分らしい生き方と仕事を両立させるために多様な働き方が選択できる必要性が高まっています。週休3日制によって多様な働き方が可能になるとされ、現実に導入する企業も出始めました。

なぜ週休3日制の導入が促されるのでしょうか? また、週休3日制を採ることでどのような効果が生まれるのでしょうか?

週休3日制のパターン

企業が採用する週休3日制のパターンとして具体的には、1日10時間労働で週4日勤務(変形労働時間制)、1日8時間労働で週4日勤務して給与水準低下、1日8時間労働で週4日勤務して給与水準維持、が挙げられます。

1日10時間労働で週4日勤務するパターンでは、通常、週休3日制・週4日勤務を選択した場合であっても、週休2日制・週5日勤務の場合と1週間あたりの労働時間は同じになります。この場合、週40時間労働を週休2日制のように5日で割って1日当たり8時間にするのではなく、4日で割るので1日あたりの労働時間が10時間になるわけです。

労働基準法では、1日の法定労働時間は8時間となっているため、この場合、毎日2時間分の時間外労働が発生してしまいます。そこでこれに対応するために週休3日制を導入するときには、月単位の「変形労働時間制」を採用することになります。

変形労働時間制では、一定の期間を単位とし、その期間内ならば1日8時間を超えて労働しても、残業代を支払わないことが可能です。労働基準法では、企業が変形労働時間制を採用する場合には、1ヶ月以内の一定期間を週当たり平均で40時間を超えないようにすることが定められていますが、週4日働いて1日の労働時間を10時間とするのであれば、この条件をクリアします。

1日8時間労働で週4日勤務するパターンでは、1日の労働時間を8時間のまま週4日働くこともありえます。そうすると、1週間の労働時間が8時間分減ってしまい32時間となるため、それに合わせて給与水準が下がることになってしまいます。1日8時間労働で週休3日になると、週休2日制より給与が下がるはずです。ただし、この場合であっても成果主義の考え方を採る企業の場合には、必ずしも給与水準が下がるとは限りません。

週休3日制のメリット・デメリット

新たな働き方として注目される週休3日制ですが、企業・従業員のいずれにもメリットがある反面、デメリットも存在します。

週休3日制を導入する企業側のメリットは、「週3日休める」というアナウンスメント効果によって従業員自身の個人生活の充実を印象付けることで、優秀な人材の確保を促す点が挙げられます。また、そうした会社であれば、労働条件・環境に不満を持つ従業員が減少することで、結果として定着率を高める効果が期待できます。

さらに、休みが増えることで、仕事の緊張を緩和してリフレッシュし、就業中の集中力を回復することも考えられます。あるいは、休日を有意義に使うことができれば、従業員のスキルアップに繋がることにもなります。

デメリットとしては、従業員がまったく就業しない日が発生するために、内部での連携性に支障が生じることで、週休2日制なら終わっていたはずの業務が終了しないといったケースが起こることがありえます。また、週休3日となると従業員が取引先と連絡の取れる日が減ってしまい、これまでと比べるとスムーズな引継ぎが難しくなることもありえます。

週休3日制の導入による従業員のメリットとしては、やはりプライベートの時間を増やせるという点にあります。気分転換をしてプレッシャーから解放されることにもなるので、心機一転仕事に対する意欲を高めることもできます。また、通勤時の混雑・渋滞ストレスから解放される日が増えるという点も、企業人にとっては大きなメリットといえます。

デメリットとしては、労働時間が減ることで、収入が減少するケースがあるということが挙げられます。企業が定めた労働・報酬制度次第で給与水準がどうなるかは変わってきますが、減額されてしまう場合のダメージは甚大です。1日10時間で週4日勤務パターンの場合には、勤務日の労働時間が増えることで、著しい疲労に襲われることもあるでしょう。休みが増える一方で、就業日における自由時間の確保は難しくなります。

このように週休3日制にはさまざまなメリット、デメリットがあります。企業側としても労働者側としても自らのニーズに照らしてその導入および選択をすることでさらなる向上に結び付くことになりますが、そのメリットとデメリットをしっかりと把握したうえで熟慮して決定する必要があります。適切な導入であれば、雇用者にとっても労働者にとっても大いに寄与する制度になります。

久留米大学法学部教授  松本 博

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