約8600人いる社員の8割を男性が占める大成建設が、育児休業取得率100%を3年連続で達成している。丸井グループも4年連続100%の記録を更新中だ。育休を取りたいというパパたちは確実に増えているが、その前に3つの高い壁が立ちはだかる。「上司や職場の無理解」「収入の減少」「復帰後のキャリア不安」だ。両社はこの壁をいかに壊したのか。
「多数派こそ育児を知らねば」
建設業界は20年間で就業者数が150万人も減り、担い手不足が深刻だ。育児に理解のない職場では、貴重な女性社員をつなぎ留められない。「多数派の男性こそ、育児とは何たるか身をもって知る必要がある」(人事部の塩入徹弥専任部長)。2016年に取得率100%の目標を掲げた。
同社では子どもが満2歳を迎えるまで、父親に取得権が与えられる。17~19年度に子どもが生まれた男性社員は全員が取得済み。19年度生まれの場合、平均取得日数は9.7日だ。今や社内の男性の6人に1人が経験者で、子育て中の女性社員からも「緊急時の早退などの相談がしやすくなった」との声があがる。
国は22年10月に出産直後に取得を促す「男性版産休」を創設し、23年4月には従業員1千人超の事業主に取得率を開示することも義務付ける。制度の充実は、取得率が低迷していることの裏返しでもある。厚生労働省によると、20年度時点の全国の男性の育休取得率は12.7%どまりだ。
大成や丸井は社内アンケートなどを通じて取得への「壁」を把握し、一つ一つ突き崩してきた。大成の現場では、以前から図面や施工過程のデータを随時上司や同僚と共有し「あす急に休むことになっても交代できる」(社員)状況にあった。しかし「上司や職場の無理解」という第1の壁が高かった。
これだけ経験者が増えている大成でも、部下に切り出されて戸惑う管理職はゼロではない。塩入専任部長は「上司こそ業務の先の見通しが本人よりも見えているはずで、調整に不可欠」と話す。
「イクボスの皆さんはぜひ取得しやすい雰囲気をつくってください」。初期の旗振り役、村田誉之前社長は全社に断続的にメッセージを発信。トップが発破をかけ、役員、部長、課長と上から下へ意識変革を迫った。
「ダメな部局、一目瞭然」
30近い支店や事業所のトップを務める役員クラスと管理職に、取得率を四半期ごとに一斉送信する。全部門の一覧表なので、ダメな部局は社内中に知られてしまう。未取得の社員がいる部局の幹部には人事部が働きかけ、取得期限が近づくほど連絡の頻度を上げてプレッシャーをかける。
その分、上司の権限を大きくした。従来は1カ月前までに人事への申請が必要だったが、上司さえ了承すれば取得直前の申請でもOKとした。「今なら取れる」という機を逃さずにすむ。
第2の壁が「収入の減少」だ。原則満1歳、事情に応じて満2歳までは給与の50~67%に相当する育児休業給付金を雇用保険から受け取れるが、夫婦ともに休めば家計不安は大きい。大成では5日間まで育休を有給扱いにできる制度を、今秋にも大幅に拡充する。男性版産休を使う場合は1カ月分を有給扱いにできる方向で検討している。
第3の壁である「復帰後のキャリア不安」を壊しにかかっているのが丸井グループだ。
「2年以内に昇進したい。でも産後の妻を助けるにはここしかない」。押川剛一郎さんは18年、当時は前例も少なかった半年間の育休を取得した。復帰から1年半後、男性としては半年育休の経験者で初めて管理職へ昇進。今はグループ会社の部長として活躍する。
昇進試験の受験資格は直近1年分の評価をもとに与えられる。育休を挟んだ場合、公平になるよう取得期間を除いて前後計1年分の評価を使う。押川さんの事例を周知し「昇進で不利になるのでは」という不安を払拭。長期取得者を増やした。
100%はゴールじゃない 丸井が目指す「早く長く」
男性育休の取得率100%を目指す機運は鮮明だ。ワーク・ライフバランス(東京・港)は「100%宣言企業100社」を公表している。現在は137社が宣言し、うち33社が一度は100%を達成している。
ただ、高取得率はゴールではない。丸井グループの25年度の目標には取得率100%の維持に加え、「育休を1カ月以上取った男性社員の割合20%」や「家庭における男性の家事・育児負担比率35%」が並ぶ。負担比率は21年度にクリアした。
社内で子どものいる女性250人に尋ねたところ、計52%が1週間から1カ月間ほど育休を取得してほしいと回答。時期は54%が産後2カ月以内を希望した。「『早く、長く』がモットー。夫婦間で育児スキルのギャップができず、妻の復帰後もスムーズに協力体制が立ち上がる」(人事部)。国が男性版産休を創設するのも「早く長く」を重要視するからだ。
大成は心理学に詳しい大学教授を招き「成長における父性の大切さ」を解説する研修も行った。「代わりが利かないのは業務ではなく父親」と塩入専任部長。短い育休だけで満足しないパパを育てる。
記事の中にもあるように、政府は、今年の10月に出産直後に取得を促す「男性版産休」を創設し、23年4月には従業員1千人超の事業主に「男性版産休」取得率の開示義務付けを予定しています。
厚生労働省は今年度、両立支援等助成金を改訂し、中小企業も育児休業を取得しやすい環境作りをサポートします。加えて4月から不妊治療の保険適用も認められ、10月からは幼児教育、保育の無償化がスタートすることになります。このように政府が、出生率の増加のために積極的に政策を打ち出していることが窺えます。
先進国では経済発展に伴い、出生率が低下していますが、欧米諸国のうち出生率が回復傾向にある国では、経済的支援から保育や育児休業制度といった「両立支援」の施策が進められてきました。こうした家族政策と出生率との相関関係のモデルを踏まえて、わが国でも近年、「両立支援」のために力を入れています。その一方で、わが国は欧州諸国に比べて現金給付、現物給付を通じた家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されています。家族関係社会支出の対GDP比をみると、わが国は、1.35%(2011年度)となっており、フランスやスウェーデンなどの欧州諸国と比べると、その4割程度にすぎません。
出生率増加のためには、過去に廃止された子供に対する扶養控除を再設定するなど税制にも踏み込み、省庁の垣根を越えて施策を準備することでさらに経済的支援を拡充していくことが重要です。
【出典:内閣府資料 国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」(2011年度)】
両立支援等助成金のご相談は、福岡県久留米市まつもと経営労務officeまでご連絡ください。