人口動態で男女の違いが鮮明になっている。全国から人を吸い寄せ続けてきた東京都は2021年、男性だけみれば25年ぶりに流出する人が多くなった。女性はなお流入が勝る。女性が大都市に集まりがちな傾向は、性別による暮らしやすさの差が地方社会に根強く残ることを映す。男女を問わず希望や能力に応じて多様なキャリアを実現できる環境を整えなければ地域経済の活性化はおぼつかない。
新型コロナウイルス禍でテレワークが広がり、東京の求心力は低下した。総務省によると、都内は転入者が転出者を上回る転入超過が21年に5433人と前年の6分の1近くに縮小した。性別にわけるとベクトルの違いが浮かぶ。男性は1344人の転出超過に転じ、女性は転入超過(6777人)のままだった。
女性の流入先は首都圏が目立つ。転入超過数が最も多かったのは神奈川県の1万7555人だった。埼玉県の1万4535人、千葉県の8473人が続く。転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ。
地方回帰の流れが強まったコロナ下で、女性がなお都市に集まり続けるのはなぜか。
ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏は「今の若い女性はやりたい仕事が明確だが、希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」と指摘する。実際、進学や就職を機に東京に移る例が多く、年代別では10代後半や20代前半の流入が際だつ。
地方の一部に残る古い性別役割意識も影響している。国土交通省の20年の調査で、上京した女性の15%は出身地の人たちが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛同すると回答した。この割合は全体の8%の倍近い。
「地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」(ニッセイ基礎研の天野氏)。なにかと便利な都市での暮らしに慣れるほど地方に戻ろうという気持ちは薄れる。
危機感にかられた動きも出てきた。過去10年で女性比率が0.48ポイント下がった兵庫県豊岡市。女性正社員を増やす目標を掲げ、官民で就労環境の改善に取り組む。市内の宿泊業者ユラクは女性上司の割合が56%と男性より高い。不規則な勤務形態をなくすなど、性別を問わず働きやすい職場づくりを進める。
宮崎県日南市は民間出身のマーケティング専門家の下、東京のIT企業など30社以上を誘致し、地元女性の受け皿を増やした。
女性に選ばれる環境づくりが企業や地域の将来を左右する。コロナ下の人口動態は地方の意識改革を迫っている。
「働き方改革」を進めていくうえで、女性や高齢者が働きやすい職場環境づくりを行うことが重視されます。その結果、男女を問わない平等で好ましい職場環境が作られることになります。これまでの日本の労働環境は、働き盛りの男性中心の社会を前提として作られてきました。そのため厳しい雇用環境に耐えうる人のみが生き残っていくような働き方が評価されてきました。いわゆる男社会で会社人間しか求められてきませんでした。
しかし、少子高齢化社会となった現在の日本ではそうした力業の手法は通用しなくなっています。価値観が見直され、仕事のために生活をするのではなく、生活のために仕事をし、個人生活の充実が最優先される風潮が強まりました。男女ともに子供を産みやすく育てやすい環境を整え、女性や高齢者を活用しながら、子育てや親の介護で仕事を辞めなくてもいい制度作りを進めることこそが国の責務であり、それを受け入れることが今の経営者には求められます。
大都市には、女性が働きやすい環境とシステムが豊富である一方で、地方では女性が働きにくいハンディが厳然と存在します。女性が働き続ける前提として、当然、結婚・出産するという関門が存在します。地方の自治体や企業は、それぞれのメリットを創出しながらさらに女性が働きやすい社会を築くことに注力していくべきです。そのことが少子高齢化の中で有効に人材を活用することにつながります。