前回からの続き
さまざまな働き方
現在では、働き方のスタイルが多様化し、普及しています。そこで、現在のワークスタイルを整理してみます。
まず、雇用形態で分類すると、正規従業員と非正規従業員に分けることができます。正規従業員の場合、収入の安定があるものの、就業の自由が利かないという難点がありましたが、最近は就業スタイルの多様化が進んでいます。
非正規従業員の具体例としては、派遣労働者、契約社員やアルバイトに加えて、業務委託契約や請負契約に基づいてフリーランスの立場で働く人、在宅ワーク型の個人事業主を挙げることができます。こうした人たちは収入が不安定であったり、社会保障の自己負担が大きかったりするというデメリットが伴うものの、自分の都合の良い時間や場所で働くことが可能になるといったメリットがあります。働くことについての選択の幅が広くなり自由な環境がある程度確保されるわけです。
ただ、法的にみると、派遣労働者、契約社員やアルバイトの場合には「労働者」として取り扱われることになるのに対して、フリーランスで働く人は「事業主」として取り扱われることになるため、労働法の適用対象として保護されることはありません。法律上は、零細であっても個人事業主であれば相手との立場は対等であり、雇用者と労働者のような上下関係は発生しないからです。当事者の関係を考えるとき、法的な取り扱いの差異は要注意です。
フリーランスの延長線上には、起業して法人成りすることで自分自身が経営者になることも考えられます。業務遂行にあたっては顧客や自社の従業員の同意が必要になるので、フリーランスの頃に比べて、就業時間や場所に制約が生じることも考えられます。その一方で、経営者ですから仕事自体を選ぶことができるし、法人としての税制上のメリットも生まれます。
次に、従業員として、企業に雇用される労働者がどのような形態で勤務するのか、またその就業形態の内容について分類してみます。
・フルタイムとパートタイム
「フルタイム」とは、職場ごとに定められた所定労働時間で働く働き方です。所定労働時間というのは、就業規則などで決められている始業時刻から終業時刻までの時間のことです。具体的な時間数は職場によって異なりますが、一般的には、労働基準法によって定められている法定労働時間の上限である「1日8時間、週40時間」になります。
一方、「パートタイム」とは、所定労働時間の一部(パート)だけ働く働き方です。労働時間が短いため、「短時間労働」や「短時間労働者」とも呼ばれます。シフトによって働くパートタイムは、フルタイムより収入額が減るというデメリットがあります。しかし、一定の所得額に達しない場合には、配偶者が働いているとその扶養に入れるというメリットがあります。配偶者の扶養に入ることで、社会保険料の自己負担がなく、所得税や住民税の一部も免除されます。
・季節労働
元々は農閑期など季節的な労働余暇を利用して臨時に就労すること、あるいは季節的な労働需要に対し一定期間だけ就労することをいいました。しかし、最近では自分自身のライフスタイルとして季節労働に従事する人も増えています。自分自身のやりたいことのために一定期間仕事に就いて、資金を確保したら、仕事から離れてやりたいことに打ち込むわけです。季節労働の雇用形態は特殊なもので、労働基準法では一般の常用労働者と区別して取扱っています。季節労働者については,4ヵ月以上引続き使用されるにいたった場合を除き、解雇制限は適用されないこととされ、法的な保護規制も弱いという問題点を抱えています。
・フレックスタイム制度
最近、よく耳にするものに「フレックスタイム制度」があります。これは、勤務時間に関する制度ですが、よくいわれるナインtoファイブ、つまり一般的な9時開始、17時終業といった固定的な勤務時間ではなく、労働者自身が、始業・終業時刻と労働時間をある程度自由に設定することができます。フレックスタイム制度が適用されると、その日の都合に合わせて出勤時間を早めたり、遅くしたりするなど、1日の働く時間帯を労働者本人の裁量で選択することが可能になります。これによって、労働者が仕事とプライベートのバランスを図りながら、自分の時間をより有効に活用する可能性が広がります。
・時短勤務
「時短勤務」とは、介護や育児、病気療養といった本人の個別の事情を勘案し、労働時間を短縮するものです。この場合には、1日の所定労働時間は原則として6時間となります。そのため、何らかの理由で仕事に充てるための十分な時間を確保できない人も仕事を継続することが可能になります。子育て世代にはありがたい制度であるため、とくに幼い子供を抱える女性の就業に寄与することが期待されます。
・テレワーク
「テレワーク」では、働く時間だけでなく働く場所の制約を解消する効果があります。テレワークについては、「在宅勤務」のように労働者が自宅で働く場合、「モバイルワーク」のようにさまざまな場所(オフィスや出先、あるいは移動中)で働く場合、「施設利用型テレワーク」のように自分の本拠から離れた場所にある拠点(サテライトオフィス)などで働く場合の3つ形態が考えられます。コロナ禍の影響で多くの企業で導入が進むことになりました。
このように、働き方の多様化によって、従来はあきらめざるを得なかった制約を排除することを可能にしています。
(仕事に関する契約の多様化(5)に続く)
久留米大学法学部 教授 松本 博