前回からの続き

3.善管注意義務

善管注意義務とは、「善良なる管理者の注意義務」の省略です。善良なる管理者の注意義務とは、契約において一般的に要求されるレベルの注意について明文化したものです。この義務が課されると、より慎重に注意を払う必要が生じます。その際には職業や地位に応じて最大限の思慮が要求されることになります。職業や地位に応じてというのは、客観的な判断に基づきます。職業や地位に応じた注意が尽くされていないと判断されると「過失あり」ということになります。

受任者の注意義務を定める民法第644条では、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」旨、規定され、善管注意義務が明示されています。「請負契約」の場合にはこうした義務が発生しないのに対して、「準委任契約」における受任者は善管注意義務を負うことになります。

 

4.中途解約

「準委任契約」と「請負契約」では、中途解約できるタイミングが異なります。「準委任契約」では、委任者と受任者がいつでも契約を解除することができます。準委任契約は、業務を遂行することを目的とするため、業務が不要になった時点で解約が可能になります。

これに対し、「請負契約」では、成果物が完成する前であれば、委任者側が契約を中途解除することができます。ただし、発注側が中途解約するケースでは、受任者に対する損害を賠償の義務を負うことになります。

 

5.再委託

再委託とは、受任者が下請け業者などの第三者に改めて業務を委託することです。「請負契約」では、この再委託が可能ですが、「準委任契約」では原則としてできません。もし準委任契約を締結したものの、自分の手に余る業務であった場合には、さらに他の人に依頼して処理することができないことを理解しておく必要があります。ただし、「準委任契約」の場合でも、委任者の承諾がある場合には、受任者は再委託することが可能になります。

 

準委任契約と派遣との違い

準委任契約とともに業務委託契約で利用されるものは「請負契約」ですが、よく混同されるものに、「派遣」があります。ここでは、準委任契約と派遣契約との違いを見ておきます。

派遣業務はアウトソーシングと一まとめにされていますが、アウトソーシングは「業務・成果物の提供」サービスであるのに対し、派遣は「人材の提供」サービスという点が異なっています。派遣では、受け入れ会社(派遣先)が派遣業者(派遣元)と「労働者派遣契約」を結び、派遣社員を受け入れ、受け入れ会社(派遣先)の管理下で事務を行います。労働者派遣契約では、派遣会社(派遣元)ではなく受け入れ会社(派遣先)に指揮・命令権があり、派遣社員に対し細かい作業指示を行うことができます。

これに対して、(以前にも触れたように)準委任契約や請負契約の場合は、発注者側には指揮・命令権がありません。それどころか、業務委託なのに発注者側がくちばしを突っ込むように指示をするのであれば、偽装請負といわれる違法な状態になってしまいます。このように業務上のイニシアティブに違いがあるということです。ところが、この違いを、発注者側もよく理解していないことがあります。業務委託契約を締結することになった場合には、こうした点に注意して契約書の内容を吟味してから業務に臨む必要があります。

 

契約の使い分けと注意点

契約類型の相違点について触れてきましたが、実際に契約を締結する際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

委任者と受任者の間で、責任範囲を明確にするためにも、的確に使い分ける必要があります。そこで、契約を使い分けるときに気を付けるべきポイントについて触れておきます。

 

仕事の完成義務

契約の使い分けにおいて重要なポイントは、「仕事の完成を目的とするかどうか」という点です。仕事を依頼する側である委任者は、必ず業務を完成させなければならないというのであれば「請負契約」を選択するべきですし、必ずしも完成させなくてもよいのであれば「準委任契約」が適しているといえます。

たとえば、ITシステムの導入を全て外部に依頼したいのであれば、受任者に完全な状態で納品してもらわなければ意味がありません。この場合には、「請負契約」を締結して、受任者に納品物に対する完成義務を負わせることが適切といえます。

これに対して、納品物が必要とされない業務であれば「準委任契約」が適しています。先程のITシステム導入の例でいえば、設計の段階で受任者の知識・技術を必要とするようなケースが考えられます。

 

仕事のプロセス

次に、仕事のプロセスが挙げられます。専門の知識やスキルを持った人に、業務のプロセスを遂行させたいのであれば、「準委任契約」が適しています。

具体的には、入力・会計業務といった事務処理やコールセンターの業務などが挙げられます。特定の業務についてピンポイントの時間、あるいは定められた契約期間内に業務を遂行させたい場合には準委任契約を選択するべきです。

(仕事に関する契約の多様化(4)に続く)

久留米大学法学部 教授 松本 博