請負契約とは?

「請負契約」とは、特定の業務を完成させることを定めた契約のことです。準委任契約とは異なり、業務を受ける側は業務を完成させ、成果物を収める義務があります。その成果物の対価として、報酬が支払われることになるのが請負契約です。一般的にいわれる「成功報酬」タイプの契約をイメージしてもらえばよいのかと思います。

 

準委任契約の種類

債権法分野を中心に大改正が行われた民法が2020年4月1日に施行されました。改正民法では、委任契約(準委任契約)は2種類に分けて定義されました。それが、以下の2つのパターンです。

履行割合型

成果完成型

それぞれの特徴について、見ていきます。

・履行割合型

まず今回の民法改正によって規定されたパターンとして、割合に応じた報酬を支払うことになる「履行割合型」があります(民法648条3項)。履行割合型とは、事務処理の「労務」の対価として報酬を支払う形式になります。入力業務や会計業務といった事務処理業務において、業務時間や工程数などの業務量に応じて報酬が支払われる契約です。従来の民法のルールでは、委任が中途で終了した場合に報酬が請求できたのは、「受任者の責(せめ)に帰することができない事由」に限って、既に履行した部分の割合に応じて報酬を請求することができるとされていました。これは労働者側の問題ではない理由に限って履行した部分の割合に応じて報酬を請求することができるということです。それが、民法の改正によって受任者の帰責事由の有無にかかわらず、責任の有無にかかわらず、履行の割合に応じた報酬を請求できるようになりました。

 

・成果完成型

次に改正民法に規定されたパターンが、「成果の引渡しと同時の報酬支払」「成果報酬を約した場合の割合に応じた報酬」です(民法648条の2)。成果完成型とは、事務処理の「成果」の対価として報酬を支払う形式になります。請負契約と同様の成功報酬タイプといえます。改正民法によって、仕事を受けた側(受任者)は、完成が不能となった場合や、何らかの理由で契約解除になった場合であっても、委任者が受ける利益の割当に応じた報酬を請求できるようになりました。

実は準委任契約でも仕事の成果物を納品することで契約完了とする「請負」に類似する契約形態にする場合があります。ところが、改正前の民法には、準委任契約で成果に対して報酬を支払う合意がある場合の規定がありませんでした。それが、今回の民法改正によって、成果完成型で準委任契約を受けた場合に、仕事を受けた側(受任者)は、成果の引渡しと同時に報酬を請求することができるようになりました。また、何らかの理由によって途中で契約解除になった場合であっても、既に履行した部分については報酬を請求できることが規定されました。

 

準委任契約と請負契約の違い

業務内容や報酬条件に応じた適切な契約を締結するには、各々の契約形態の特徴を理解する必要があります。そこで、準委任契約と請負契約の違いについて比較してみます。

準委任契約と請負契約の義務や責任範囲には、以下のような違いがあります。

 

1.仕事の完成義務

準委任契約と請負契約についての仕事に対する完成義務の有無は両者の最も大きな違いです。「請負契約」では、受任者は引き受けた業務を完成させて、納品する義務があります。

これに対し、「準委任契約」では、受任者は業務を遂行すること自体が目的であり、業務を完成させる義務は発生しません。準委任契約は、顧客のところに駐在するタイプの作業で結ばれるケースが多いようです。IT関連の開発業務で開発の工程によって契約形態を変更する場合、基本設計、受け入れテストなどの作業過程では準委任契約が選択されることがあります。

「入学すれば必ず入学者全員を資格試験に合格させる」と謳って入学させた場合、これは請負契約にあたります。この文言を厳格に解すると、1人でも合格しなかった場合には、成果報酬なしという結果になってしまいます。こうしたことを考慮すると、請負契約は、達成するべき内容が確定していない業務や達成が非常に困難な業務については適していないといえます。ハイリスク、ハイリターンのギャンブル的な性格を有する場合があるからです。

 

2.契約不適合責任(瑕疵担保責任)

契約不適合責任とは、契約において商品に欠陥や品質不良、数量不足などの不備があった場合に、受任者が負う責任のことをいいます。改正前の民法の規定では、「瑕疵(かし)担保責任」と呼ばれていましたが、民法改正によって「契約不適合責任」という名称に変わりました。これまで使われてきた「瑕疵」という表現が専門的で日常的にあまり使うことのない表現であることから内容の理解しやすい「契約不適合」という表現に改められました。「請負契約」においては、契約不適合者の責任が発生しますが、「準委任契約」においては発生しません。また、改正前民法の下では、瑕疵担保責任の対象は特定物に限るとされていましたが、改正後は、特定物・不特定物を問わず契約不適合責任の規定が適用されることになります。

(仕事に関する契約の多様化(3)に続く)

久留米大学法学部 教授 松本 博