雇用契約とは?
企業(会社や個人商人)が従業員を雇う際の契約は、一般的には、「雇用契約」です。雇用契約とは、労働者が雇用者の労働に従事し、雇用者は労働の対価として報酬を与える契約です。
雇用契約以外の仕事に関する契約としては、「請負契約」や「委任契約」があります。雇用契約の場合は、労働者は雇用者の指揮・命令に従って仕事をすることになりますが、請負契約や委任契約では、雇用主の指示ではなく自らの判断で独立して仕事をすることになります。契約当事者を「タテ」の関係で捉えたものが、「雇用契約」、「ヨコ」の関係で捉えたものが、「請負契約」・「委任契約」というイメージで考えてください。これらの契約類型はいずれも民法に規定されています。
これまでの日本における仕事に関する契約は、その多くが「雇用契約」でした。ところが、民法改正、働き方改革、そして新型コロナの影響によるテレワークの定着によって、仕事に関する契約の多様化が一気に進む状況に至っています。
雇用契約と請負契約・委任契約の違い
「雇用契約」を締結する労働者は、労働基準法や労働契約法といった法律により、保護されています。雇用契約を締結している労働者は、法律に基づいて有給休暇や残業代が請求できますし、雇用者側の一方的な都合で解雇することはありません。これは、法律に基づいて、労働者に認められた権利なので、たとえ雇用契約書に「当社においては有給休暇が認められません」といった規定があったとしても、そのような記載は無効となります。法律は、一般的に弱い立場の労働者を保護しているためです。
ところが、「請負契約」や「委任契約」によって仕事をする人の場合には、「雇用契約」を前提とする労働基準法などの保護の対象外となります。また、雇用契約の場合は会社に社会保険料の負担分が発生しますが、請負契約や委任契約の場合にはそうした負担はありません。そのため、雇用主が意図的に請負契約や委任契約という形式で従業員との契約を結ぼうとすることも考えられます。しかし、その場合でも、その契約が雇用契約なのか、あるいは請負契約や委任契約なのかは、契約書の表面的な記載から決まるわけではありません。
実際に、委託者と受託者との関係が指揮・命令の関係にあるのか、対等な立場にあるのかその内容を総合的に判断して契約の性質が判断されます。
具体的には、
・受託者が委託者のみならず他者からも仕事を受けることが可能な状態であるのか
・受託者が委託者の指揮・命令を受けずに自分自身の判断で業務を行っているのか
・仕事に必要な施設、機材や材料を受託者自身が準備しているのか
といったことを検討することになります。
「会社に就職する際に、請負契約や委任契約と記載されている契約書を渡された」場合は、表面的な文言に捉われずその契約の内容をよく吟味して、実質的にはそれが雇用契約にあたるのではないのかを検討する必要があります。
委任契約・準委任契約とは?
「準委任契約」とは、特定の業務を遂行することを定めた契約のことです。特定の業務を遂行することを定めた契約ですが、業務が法律行為であれば「委任契約」、法律行為以外の業務であれば「準委任契約」になります。委任・準委任契約では、業務を依頼する側を「委任者」、業務を受ける側を「受任者」といいます。
準委任契約は、特定の業務の遂行が目的であり、仕事の結果や成果物に対して完成の義務を負うことはありません。業務の結果に対して不備があったとしても、委任者は受任者に対して修正や保証を求めることができません。
業務委託契約とは?
「業務委託契約」とは、自社で遂行できない特定の業務を、他の企業や個人に委託する契約のことを指します。企業に勤める従業員のように雇用契約を結ばずに、特定の業務に限って締結される契約です。業務委託契約では、特定の業務のみを依頼できるため、自社が持っている技術力や人的資源では困難な特殊な業務を外部に任せたいときに使われることになります。
具体例として、IT関連システムや事業用ソフトの開発といった業務が挙げられます。業務委託契約の特徴としては、仕事を依頼する側に指揮・命令権が発生しないことがあります。指揮・命令権とは、労働者に対して業務上の指示や命令を行う権利のことです。たとえば、企業と雇用契約を結んでいる正規の従業員の場合には、指揮・命令権がある雇用者から業務上の指示や命令を受けて仕事を進めます。これに対して、業務委託契約(委任契約・準委任契約および請負契約)の場合には、発注側には指揮・命令権がないため、業務の進行や労働時間、勤務形態などに関して原則として指示を行うことはできません。
業務委託契約において業務を依頼する側は、自社の人的・設備的な資源不足を補えるだけではなく、その分野における専門家に依頼することで、質の高い成果を期待できるというメリットがあります。
業務委託契約は、大きく2種類に分けることができます。「請負契約」と「委任契約・準委任契約」です。つまり、準委任契約は、業務委託契約のうちの一つということになります。
(仕事に関する契約の多様化(2)に続く)
久留米大学法学部 教授 松本 博