料理のデリバリーを行う「ウーバーイーツ」の配達員が労働組合を結成し、運営会社に待遇の改善を求めたものの拒否されたことについて、東京の労働委員会は、配達員も労働組合を結成し団体交渉ができるとして、運営会社に対し、交渉に応じるよう命じました。アプリなどを通じて個人で働く配達員の団体交渉について、判断が示されるのは初めてです。
ウーバーイーツの配達員の一部で作る労働組合は、一方的に報酬を引き下げられたなどとして、運営会社に改善を求める団体交渉を申し入れましたが、会社側は「配達員は労働者にはあたらない」として拒否したため、2年前、東京の労働委員会に救済を申し立てていました。
今回は、アプリを通じて個人で働く配達員が、ウーバーイーツの運営会社との関係上、労働組合法で定める労働者として認められるかが争われていました。
東京の労働委員会は25日、「配達員は事業の遂行に不可欠な労働力だ。配達員は働く時間や場所を選ぶ自由がある一方で、広い意味で会社の指揮監督下に置かれていて、労働組合法上の労働者にあたる」などとして申し立てを認め、運営会社に対し、交渉に応じるよう命じました。
「ウーバーイーツ」は、スマートフォンのアプリを通じて、レストランと配達員を結ぶ「プラットフォーム」と呼ばれる事業形態ですが、東京の労働委員会によりますと、プラットフォームを利用して働く配達員の労働組合の結成や団体交渉が認められるかについて判断が示されるのは今回が初めてだということです。
運営会社 “独立した働き方考慮しない判断 誠に残念”
「ウーバーイーツ」の運営会社は「今回の判断は、配達パートナーが重視するフレキシブルで独立した働き方などを十分に考慮しないものであり、誠に残念に思っております。再審査の申し立てを含めて、今後の対応を検討していきます。配達パートナーのご意見に、引き続き耳を傾けていきます」とコメントしました。
配達員 労働組合 “働き方は自由も不安 決定は力になる”
配達員の一部で作る労働組合「ウーバーイーツユニオン」は会見を開き、渡辺雅史執行委員長は「ウーバーイーツの働き方は自由ではあるが、横のつながりなく不安だった。団体交渉に応じないといけないという決定が出たことは、われわれの力になると考えている。ウーバー側とただ話し合いをしたい」と話していました。
また、前執行委員長の土屋俊明さんは「一方的なシステム変更や報酬体系の変更があって、私も含めて配達員が困っている。今回の命令が現状を打開することにつながってほしい。この仕事が嫌いだというわけではないので、話し合いでもっとよくしていきたい」と話していました。
専門家「意義ある命令 保護や制度の議論進める必要」
フリーランスやプラットフォームを介した働き方の現状に詳しい法政大学の沼田雅之教授は、デジタル技術の革新でプラットフォームを介した働き方が広がる可能性を見据え、今から制度の在り方について議論を始めるべきだと指摘しています。
沼田教授は、今回の判断について、「労働組合法上の労働者であることを契約形式ではなく実態に則して判断している。プラットフォームを介した働き方は労働ではないという考えもある中で意義のある命令だ。日本では、労働者かどうかについて、働く側も企業に属しているかそうでないかの二者択一的に見る傾向があるが今回の命令で、企業に属していなくても声を上げていいんだというメッセージが当事者たちに伝わったのではないか」としています。
そのうえで、「働く時間や場所を自由に選択し、企業側もニーズに応じて優秀な働く人を確保できるプラットフォームを介した働き方にはメリットもあり、今後も広がるだろう。それを可能にする技術革新が進む中で、保護や制度の議論が追いついておらず、危惧している。今回の命令をきっかけに議論を進める必要がある」としています。
労働基準法と労働組合法での「労働者」とは
今回、焦点となっていたのはウーバーイーツの配達員が労働組合法上の労働者として運営会社と団体交渉ができるかどうかです。
厚生労働省によりますと、労働条件の最低基準を定める労働基準法と、働く人が企業と対等の立場で交渉することを目的とする労働組合法では、対象となる「労働者」の定義が異なります。
労働基準法での「労働者」は、企業などに使用され賃金を支払われる人と定義され、業務の指揮命令を受けるなどの要件が定められています。労働基準法の労働者になると労働時間の上限や最低賃金などが適用されます。
一方、労働組合法では「労働者」について、「賃金などに近い形式の収入で生活する者」と定められ、「労働者」が企業の事業の一部に組み込まれているかといった要素に照らして判断するとされ、認められる範囲が労働基準法よりも広いと解釈されています。このため、フリーランスなどの個人事業主でも労働組合を作って企業側と交渉を行えるケースもあります。
今回の組合の申し立てに対して運営会社側は、配達員は自己の裁量で働く個人事業主のため労働者ではなく、会社は個人どうしの取り引きの場であるマッチングのプラットフォームを提供しているだけで配達員の使用者にはあたらないなどと主張していましたが退けられました
ウーバーイーツの配達員が労働者か否かについては、判断が分かれます。
労基法上の「労働者性」は、就労の実態に即して客観的に判断する必要があります。契約の形式が請負や委任となっていても、実態において労基法上の基準を満たしているか個別にみなければなりません。労基法上の「労働者」とは、使用者の指揮命令を受けて労働し、かつ賃金を支払われている者のことをいいます。(9条)
ウーバーイーツの運営会社が、「労働者性」を否定したのは、指揮命令を受けたとしても監督下、管理の下で労務の提供は行われていないことや、報酬の支払い方法、租税及び各種保険料の負担等について考慮したと考えられます。
これに対して、東京の労働委員会は、「労働組合法上の労働者に当たる」としました。その上で運営会社に対し、交渉に応じるよう命じました。
労働組合法は、「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しています。(3条)。この定義は、労働者の経済的従属性に着目し、労働組合を組織し使用者と団体交渉を行う権利を保障すべき者の範囲を定めたものです。「使用されること」を要件としていないため、労基法や労契法上の「労働者」よりも広い範囲に及びます。
ウーバーイーツの配達員については、あくまで個人事業主です。独立して自由に働ける実態においては、「労働者性」は低いと考えられます。ところが、個人と企業が報酬や条件を決定する際に、対等な立場で交渉できるかについては、不平等な場合もあります。
ウーバーイーツのような新しい働き方は、自由でフレキシブルさを享受できますが、その一方で、委任契約であることに伴う法的リスク(自己責任制)を理解しておく必要があります。