トヨタ自動車労働組合は2022年の春季労使交渉で賃上げの要求方式を見直す。従来の全組合員平均で要求額を出す方式は廃止する。代わりに、職種や階級ごとに細分化して要求する執行部案をまとめた。トヨタの労使交渉は「脱一律」の流れが鮮明となる。大企業の多くの労組が取り入れる組合員平均による要求を止めることで賃上げ相場のけん引役だったトヨタの役割がさらに薄れるのは必至。他の企業の賃上げ交渉にも影響を与えそうだ。
変更理由についてトヨタ労組は「(個々の組合員の)水準をわかりやすくし、組合員が当事者意識を持ちやすくするため」(幹部)と説明した。
要求内容は22年2月に正式決定する。見直し案では賃上げのベースアップ(ベア)や定期昇給が含まれる額を職種や階級ごとに要求する。例えば「事務職の指導職クラス」「(生産現場が中心の)技能職の中堅クラス」といった職種・階級ごとに要求額を出す。具体的な額は今後決める。
21年春の交渉ではトヨタ労組は全組合員平均で9200円の賃上げを要求し、会社側から満額回答を得た。ベアの要求額は19年春から非開示。組合側は22年春もベアの要求額は示さない方針だ。
これまで日本の団体交渉は労働組合一丸となって行う一律要求が一般的でした。日本を代表する企業労組の今回の動きは、それを変えていく発端になると考えられます。当然に他の企業にも多大な影響を与えることになります。従来、賃金の決定方法は生涯一つの企業に勤めることを前提にしており、そのうえで年更序列型の一律給料表により定められてきました。人事評価制度に一部個別の能力を評価する方法を採り入れてきた企業も、既存のやり方が通用しなくなっているということに気付き始めています。経営者側からのアプローチではなく、労働者側から変わろうとしていることに意義があります。「当事者意識」という言葉が、今回の動きのキーワードです。大企業であれ、中小企業であれ、これから100年後も生き残るための体質改善のために労使ともに知恵を出し合うことは、重要なポイントです。